「いつか来た記者道」(13)-(露久保孝一=産経) 

◎読書が好きな選手は頭脳プレーがお上手?

前回(12回)は、プロ野球選手が新聞を読んで社会人としての知識を得るということを書いたが、今回は、本を読んで人生観を身につけるという話をしたい。プロ野球選手には、昔から本を読むのが好きだという選手は多い。現在も、読書家といわれる選手が少なくなく、大リーグ、マリナーズの菊池雄星もその一人である。

▽大リーガー菊池と「燃えよ剣」

菊池といえば、岩手県の花巻東高時代から左腕快速投手として名を馳せた。3年後に大谷翔平(エンゼルス)が、
 「菊池投手にあこがれて入学した」
 という存在感のある投手だった。
 2010年、西武にドラフト1位で入団したときは、合宿の若獅子寮に50冊を超える本を持って入寮した。
 愛読書は時代歴史小説、サスペンス、ノンフィクションなど幅広く、その中に司馬遼太郎の「燃えよ剣」や沢木耕太郎の「敗れざる者たち」があった。
 「燃えよ剣」は新選組副長・土方歳三(ひじかた・としぞう)を描き、江戸幕府の終末期を物語る傑作である。
 武蔵国多摩郡(現東京)の一青年が、国を動かす舞台に上り詰めて“正義の戦い”に挑む姿は、若き菊池の「大志」を刺激したかもしれない。日本で活躍し、プロ野球の最高峰である大リーグに挑む精神は、そんな闘魂の表れか。私(露久保)も、『燃えよ剣』はぞくぞくして読んだものだ。

▽読書で学んだV9川上、ID野村
昭和40年代の“巨人V9”の監督、川上哲治は「菜根譚」(さいこんたん)をじっくり読んだ。
 この本は、中国の明(みん)代末期に儒者洪応明が書いた随筆集である。
 「堅くて筋が多い菜根譚はよく噛みしめることで真の味わいがある」
 と説き、処世訓のバイブルとして多くの日本の政治家や経営者を魅了し、“ID野球”で知られる野村克也も愛読書の一冊にしている。
 現在は、テレビ、携帯電話、パソコンの普及により活字離れが加速しているが、それでも、プロ野球の一流選手には読書家が多い、という状況は消えていない。
 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)日本代表の小久保裕紀監督や阪神の藤浪晋太郎投手は、愛読家としても知られている。
 1冊の本を読んだからといって、すぐにその人の人生観が変わったり、本に書いてあることから効果を得られたりすることは、難しいことだが、本から何かのヒントを得て実際に試してみるという経験は多くの人が持っている。
 プロ野球選手は、歴史上の人物からその生き方、闘志、戦い方、精神力などを学び、練習や実践の中で生かしているかもしれない。本も新聞も、選手や一般社会人の“日常の友”になってほしいものである。“(了)