◎深紅の優勝旗と紫紺の優勝旗

「春はセンバツから」
この日本の風物詩が消えた。2020年春の選抜高校野球は、予想外の新型コロナ・ウィルスの感染の影響を受けて中止になった。無念の選手たちを思うと、気の毒としか言いようがない。
 選抜大会が中止になったとき、同情の声とともに様々な善後策が出た。そのなかに、夏の大会に組み入れたらどうか…という意見があった。これに対し、春と夏の甲子園大会は在り方が異なる、との声もあった。
春は選考で前年秋の勝率を重要視し、地域から複数校が選ばれる。いまは21世紀枠もある。分かりやすくいえば“招待試合”か。これに対し、夏は地方予選から勝ち抜き、地区の全勝校1校が出てくる。春は「出場」、夏は「代表」と言い表すゆえんだ。
両大会の歴史は古い。ともに大正時代に産声をあげた。
 先輩は夏の選手権大会で1915年(大正4年)に中等野球として始まった。代表は、秋田中、早稲田実業、山田中(三重)、京都二中、和歌山中、神戸二中、鳥取中、広島中、高松中、久留米商(福岡)の10校。第1球は鳥取中が投げ、京都二中が延長13回サヨナラ勝ちで優勝している。
 それから9年後の24年(大正13年)に選抜大会が行われた。参加は、早稲田実業、横浜商、愛知一中、立命館中(京都)、市岡中(大阪)、和歌山中、高松商、松山商の8校で、優勝は開幕戦で第1球を投じ、逆転サヨナラ勝ちした高松商が優勝を飾った。
 優勝旗は通称、夏が「深紅の大優勝旗」。春は「紫紺の優勝旗」と呼ぶ。
 筆者は夏春連覇した当時の高校野球部員で、出場大会すべての優勝旗を持ち帰った経験がある。そんな中に深紅と紫紺の優勝旗があるのだが、実際に持った感じはどちらもずっしりとした重みがあり、全国優勝の価値の重さが伝わってきたのを覚えている。地方大会の優勝旗とは格が違った。
夏と春は優勝旗の色が示すように中身に特徴がある。夏の深紅は“勝負の色”を表し、春の紫紺は“交流の色”のように見える。
 コロナとの戦いは延長に入ったようで、夏の大会開催が気になる。(菅谷 齊=共同通信)