「大リーグ ヨコから目線」(36)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)
◎話題をさらったオフのGM交代劇
▽年俸10億円を惜しげなく
監督と同様に今年のシーズンオフの話題を集めたのがGM(ゼネラル・マネジャー)の人事だ。
11月にシカゴ・カブスのテオ・エプスタインGMが突然、勇退した。同氏は2002年に28歳でレッドソックスのフロント入り。当時、あまり重視されていなかった統計学を用いて戦術、戦略を練り、2004年にレッドソックスを世界一に導いた。11年にカブスに移ると16年にはワールドシリーズ優勝。カブスにとっては108年ぶりの快挙だった。
その年俸は1000万ドル(約10億円)というから、一流のメジャーリーガー並みだ。またフロリダ・マーリンズではキム・アング(52)が大リーグ史上、初の女性GMに就任した。
2人に共通するのは野球選手の経験がないことだ。エプススタインはエール大を卒業したエリートだが、単なる野球好きの青年だった。アングは学生時代、優れた選手だったが、それはソフトボールだった。野球をプレーしたことはなくても、2人とも長く組織でフロントの仕事に携わってきた。
エプスタインはレッドソックスでチーム編成を学び、アングは大卒後、ホワイトソックスに職を得ると、その後、ヤンキース、ドジャース、大リーグ機構で仕事をしている。それだけの能力を評価されて、ステップアップしてきたのだろう。マーリンズの編成担当重役のデレク・ジーターも「その知識と経験はチャンピオンレベル」と大きな期待をかけている。
エプスタインは破格としても、大リーグでは億単位の年俸をもらうGMは珍しくない。監督の人選からドラフト、トレードなどチーム作りの責任をすべて負うからだ。従って新しいGMを招聘するときは、複数の候補者を面接して決めるのが普通だ。
例えば今オフ、ニューヨーク・メッツは4人をリストアップ。その中からジャレッド・ポーターを採用した。ポーターは今季、アリゾナ・ダイヤモンドバックスのアシスタントGMを務めていた。
▽本ならではの楽天石井全権監督
逆にいえばそれだけGMの能力によって、チームの成績が左右されることになる。実際、今オフも5球団でGMが交代している。大リーグのHPや関連のサイトでも、GMの動向は大きく報道される。それだけファンにとっても関心事なのである。
フィラデルフィア・フィリーズではドン・ブロウスキー(64)が球団社長に就任したが、モントリオール・エクスポズやレッドソックスなどでGMを務めた人物だ。優秀な編成責任者は球団トップにまで道が開けているのである。
今オフ、プロ野球でもGMが話題になった。楽天の石井一久GMが2020年4位に終わった三木肇監督を解任。自ら監督に就任して、現場とフロントのトップを兼務することになったのだ。プロ野球によく見られる「全権監督」だ。
メジャーではGMに対して、現場の監督をFM(フィールド・マネジャー)と呼ぶことがある。それだけ厳密に役割分担をハッキリさせている。GMと監督は時に対立することもあるし、兼務できるほど生易しい職務ではないとの認識からだろう。
成績を残せない監督をクビにするのはGMの仕事のひとつである。今年、石井全権監督率いる楽天がどんな成績を残し、その結果、オフの人事がどうなるか注目したい。(了)