「大リーグ見聞録」(50)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)

◎日米とも監督業は大変だ
▽すり減らす神経
 大リーグではオーナー側と選手会の労使の交渉が難航。オーナー側がロックアウトを実施、キャンプがいまだに行われていない。対照的にプロ野球ではキャンプを終えた各球団がオープン戦に突入している。キャンプ当初は中日の立浪和義監督のコロナ陽性やヤクルト高津臣吾監督の濃厚接触者が判明。どうなるかと心配されたが、大事に至らなかったのは何よりだった。
 昨年、大リーグのキャンプ中に倒れたのがヤンキースのアーロン・ブーン監督だ。しばらく前から頭がフラフラしたり、呼吸が苦しかったそうだが、とうとう3月4日(現地)に入院。検査を受けた結果、ペースメーカーが必要と診断された。
2018年にニューヨーク・ヤンキース監督に就任。ポストシーズンには毎年進出するが、ワールドシリーズとは無縁。契約が切れる4年目を迎え、さらなるプレッシャーがストレスとなり、心臓の持病を悪化させたようだ。ブーン監督は病室からヘッドコーチに指示を出し、報告を受けていたが、結局、当初の退院予定を早めて現場に復帰した。おちおち休んでいられない心境だったのだろう。
 ワールドシリーズを2度制した名将のクリーブランド・インデアンス(今季からガーディアンズ)のテリー・フランコーナ監督は17年には不整脈、20年には胃の激でシーズン中に一時、戦列を離れている。
▽ニトロに激やせ 
プロ野球でも巨人を7年間(1981~83年、1989~92年)率いた藤田元司が心臓発作で試合中に倒れたことがあった。心臓に不安があり、常にニトログリセリンを持ち歩いていたことはよく知られていた。巨人監督勇退後の1996年のシーズンオフにロッテ監督を打診されたが固辞。体調を優先したためだったという。
 星野仙一監督は高血圧の体質。阪神時代(2002~03年)には試合中に何度か倒れることもあった。体重も落ち、一時はユニホームのズボンがブカブカになり、両手の拳をユニホームのベルトにはさんで激やせを悟られないようにしたこともあったそうだ。
 チームの成績の責任を負うのは監督だ。人気チームであればあるほど期待が大きい分、重圧もよりかかる。負ければファンやマスコミの視線も厳しくなる。プロ野球では12人、メジャーでは30人。監督は野球人なら誰でも一度はやりたい仕事というが、肉体、精神両面でタフさが求められる。(了)