「セ・リーグDH採用で球界が変わる?」―(山田 收=報知)

第24回「ナ・リーグDH制と日本への影響」①
 日米ともにシーズンがスタートした。当初、予定通りの開催が危ぶまれていたMLBも急転直下、労使交渉が妥結。新たな労使協定が締結され、1週間遅れで開幕した。今季は、本稿のテーマであるDH制に関して、大きな変更があった。新型コロナの影響で60試合に短縮となった2020年に臨時で採用されたナ・リーグでのDH制が本格導入が決まったのだ。
 ア・ナ両リーグで採用されるユニバーサルDHに加え、新ルールとして先発ピッチャーが降板後もDHとして出場できる、いわゆる“大谷ルール”が認められた。昨年のオールスターで話題になった「大谷翔平を投手でも打者でも出場させる」という特別ルールが公式戦でも採用された。大谷翔平がMLBを動かした、といえそうだ。今回から、ナ・リーグDH制の意味と今後予想される日本への影響を考えてみたい。
 ユニバーサルDH制は、以前から論議されてきたテーマだった。前述した通り、特例とした2020年は2年後への布石だったのでは、と想像する。狙いは①打撃戦を増やす②選手の雇用拡大の2つだろう。
 ①2021年、ナ・リーグの平均打率は.242、総本塁打は2885本だった。ちなみにア・リーグは.245、3059本。アメリカ人は、打撃戦というか、乱打戦を好む傾向がある。そういったファン心理に沿った形だ。球場から離れたファンを取り戻そうという思いがあるのだろう。
一方で、監督のきめ細やかな采配で勝つ、といったゲームは当然ながら減る。
 ②ナ・リーグのチームにとっては、これまでなかったポジションであり、確実に1つの枠を増やす結果となる。選手の需要は大きく拡大する。単純にいうと、恩恵を受けるのが実績のある大ベテランだろう。これまでのように、打って走って守ることが苦しくなるプレーヤーの受け皿になるということだ。従来ならば、受入れ先がア・リーグ15球団だったのが(在籍球団を含めて)倍の30球団に広がるからだ。
 その代表格がア・リーグ東地区のレイズからナ・リーグ東地区のナショナルズへ移籍したネルソン・クルーズ。7月に42歳となる大ベテラン。本塁打王、打点王各1回獲得、34歳以降で30本塁打以上を7度もマークしている。衰え知らずの強打者にとっては、絶好のタイミングだった。
 もう1人がアルバート・プホルス(42歳)。メジャーデビューがイチローと同期の2001年。2012年からエンゼルスに在籍、DHを大谷に奪われる形で21年、ドジャースに移籍。主に代打での出場となった。22年シーズン直前に、古巣カージナルスへ11年ぶりに復帰した。今季、700本塁打(昨年まで679本)&3000試合出場(同2971)という前人未到の大記録に挑戦できることになった。殿堂入りが確実視されるレジェンドの最後の雄姿が見られるのも、この新制度のお陰だろう。(続)