「いつか来た記者道」(50) - (露久保孝一=産経)

◎大谷スピーチから英語を学ぶ高校生
 高校生の間で、これまでなかった会話が交わされている。
 「私は成年者よ。でも君は未成年のまま高校を終えるのね」という高3の生徒がいれば、「新しい英語の教科書は面白そう。僕の好きなスポーツ選手のスピーチを聴いて英語を勉強しよう」という高2生徒がいる。
 成年者という高3の話は、2022年4月1日に成人年齢を20歳から18歳に引き下げる改正民法が施行されて生まれた「18歳成人」のことである。この法律により、高3クラスに成年者と未成年者が混在する現象が現れた。たとえば、4月生まれの生徒は高3で誕生日を迎えるとすぐに成人となる、一方、3月生まれの生徒は18歳になるころは卒業を迎え高校在学中は未成年のまま過ごすことになってしまうのである。
 英語の教科書は、第一学習社の「Vivid English Communication Ⅱ」のことである。この教科書は、同年の文部科学省検定を通った各分野の高校教科書の中のひとつで、アメリカで活躍する日本人若手の大谷翔平、八村塁、大坂なおみ選手らが題材となっている。

 ▽最優秀新人授賞式での英語スピーチも

 大谷は米大リーグのエンゼルスに所属し、投手と打者の二刀流で主力として活躍中である。この大谷の英語スピーチやインタビューから学習してもらおうと教科書に採用されたのである。同じように米プロバスケットボールの八村、女子プロテニスの大坂らも英語で紹介されている。
 大谷が登場するのは、レッスン1~10までのコースのうち、レッスン1の「日本人アスリートと英語」である。第一学習社の教科書ダイジェスト版には、「大谷選手のスピーチの内容を理解し、周囲の人に感謝の気持ちを話す」としてレッスンの目的、課題、特色などが述べられている。大谷は18年にア・リーグの「ルーキー・オブ・ザ・イヤー(最優秀新人)」を受賞し、授賞式のパーティーで英語スピーチしており、その内容も教科書に載っている。
 大谷は、かつて小学校の道徳教材に起用されたこともある。光村図書出版の18年度からの5年生の教科書に、「夢を実現するためには」というタイトルで登場し、花巻東高時代に作成した「目標達成シート」が掲載された。夢を実現するためにコツコツと努力する大切さを子ども向けに知らせる-という内容である。

▽18歳球児は選挙に投票して甲子園をめざす

 高3時代といえば、球児にとっては最後のシーズンになる。地区大会の勝利をめざして練習に励み、甲子園進出に夢をかける。18歳になって選挙権を得て、22年7月参議院選挙に投票した球児たちもいた。さらに英語の教科書で、海外で活躍するヒーロー、ヒロインから英語を学習しようと取り組んでいる高校生もいる。スポーツ選手が、その活躍によりただマスコミをにぎわすだけでなく、教科書やスピーチで教師の代わりとなって学習の向上、指導に一役買うという社会貢献も注目されそうである。(続)