◎スカウト、戦力を支える眼力ー(菅谷 齊=共同通信)

MVPはドラフト指名10位だった。2022年の日本シリーズに勝ったオリックス杉本裕太郎のことである。15年秋のドラフト会議でJR西日本から入団し、昨年の本塁打王。あだ名はアニメのヒーローで右手を真上に突き上げるところから“ラオウ”と呼ばれる。
 この杉本に象徴されるように、このシーズンはドラフト4位以下の下位指名、あるいは育成指名の選手が活躍した。
驚くのはセ・リーグの打撃10傑で、半分の5人までがそうだった。2位の中日・大島洋平、3位と4位のDeNAコンビの佐野恵太、宮崎敏郎に7位の中日・岡林勇希、9位の広島・坂倉将吾。首位打者経験のある佐野は岡林とともにリーグ最多161安打を放った。
投手も最多勝と防御率1位となった阪神の青柳晃洋、同僚の最多ホールド湯浅京己、巨人のエースとなった戸郷翔征も下位指名だった。
パ・リーグにもいる。オリックスのエース山本由伸は16年の4位。勝率、勝利、防御率、奪三振の2年連続4冠で前年に続いて沢村賞に選ばれた。20年の新人王で最多ホールドの西武・平良海馬もそうだった。
この現象で注目したいのはスカウトの眼力である。地道な選手観察を基本に中学生のときから目をつけている。それと情報網が重要で高校、大学、社会人、独立リーグ、さらに海外と範囲は広い。ネットの利用もある。人脈の勝負ともいえる。
スカウトで思い出すのはヤクルトにいた片岡宏雄さん(故人)。とにかく顔が広く、選手を見る目は確かだった。浪商の捕手として有名だったし、立大ではエース杉浦忠の大きく鋭いカーブを唯一捕球できることから早くレギュラーに抜擢された。同時に長嶋茂雄の打撃、本屋敷錦吾の守備を目の当たりにしている。中日を退団した後はスカウトにスポーツ紙の記者と様々な経験を積んだ。多くの無名選手を探して獲得し、弱小チームの戦力を支えた。
甲子園や神宮で活躍して名前が知れ渡った選手が指名上位になるのは、戦力プラス知名度という人気が観客動員に結びつくとしているからで、高額の契約金を出す。しかし、最近は育成指名の選手に目が注がれている。10年の育成指名の4位から6位までのソフトバンクの千賀滉大、牧原大成、甲斐拓也はその代表的な例だった。
かつて1位指名選手を獲得できなかったことから自ら命を断ったスカウトがいた。1位指名といってもプロでどう働けるか分からないのに、である。そんな歴史を経てスカウトは動く。(了)