「大リーグ見聞録」(63)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)

◎盛り上がった”WBC異聞”
▽アメリカの便器は石器時代?
第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC=2023年3月)は日本の優勝で幕を閉じた。6年ぶりの開催、各国代表として、約180人のメジャーリーガーが参加したこともあり、興行的にも、野球の普及面でも大成功。大いに盛り上がった。特に日本での予選、準々決勝は日本だけでなく、各国の選手、報道陣、ファンに強烈な印象を残し、アメリカでの準決勝、決勝の熱狂につながった。その余韻は長く続いている。
試合だけではない。海外からの選手、報道陣、観客には日本のファンや食べ物、文化などあらゆるものが好評だった。中でも思わずうなったのは、MLB公式記者マイク・クレア氏の日本のトイレに関する感想だ。便器が暖かく、しかも、お尻を洗うお湯が出るトイレットに感激。「米国に戻ってきたら、まるで石器時代に来たようだ」うんぬんと書き込んだ。
私は2000年から大リーグを本格的に取材、観戦。直近はコロナ前の2019年に渡米した。その間、クレア記者が絶賛するトイレは、スタジアムでも美術館のような公共施設でも見たことがない。さすがに「石器時代」は大袈裟だが、日本のトイレの清潔さ、便利さは本当に素晴らしいと改めて思った。
▽40年前、大リーガーは驚いた
今でこそ、海外プレスも大リーガーも感激する日本のトイレだが、以前はまったく反対だった。日米野球で来日した選手が日本のトイレに呆れ、閉口したと聞いたことがあるからだ。
昭和53年(1978年)、トム・シーバーやジョニー・ベンチを擁するシンシナティ・レッズが日米野球で来日。日本各地で巨人や日本選抜などと17試合を戦った(レッズの14勝2敗1分け)。巨人や阪神が本拠地とする後楽園や甲子園だけでなく、札幌、仙台、富山、熊本、小倉、静岡の地方球場でも試合をした。
ある地方球場で試合前、選手が用を足そうとトイレに入った。するとビックリしてこう声を上げたという。
「OH!NO CHAIR!(ノー、椅子がない)」
 当時、地方球場によっては洋式のトイレがなく、あるのはしゃがみ込む和式だけ。初めての便器に使用を躊躇、我慢してプレーした選手もいたそうだ。その時の日米野球に帯同した関係者から聞いた話だ。
 あれから40年以上の時が立ち、日本は野球もトイレも世界の頂点に立っている。(了)