「いつか来た記者道」(62)-(露久保孝一=産経)
◎大新聞のスポーツ面が消える?
プロ野球の試合結果を何で見るか。新聞、テレビのスポーツニュースで見る、とひと昔前までならほとんど人がそう答えたと思う。しかし、21世紀に入ってからは、インターネットが普及してプロ野球の情報源が一変した。インターネットが試合の途中経過と結果を速報し、携帯電話とパソコンでその情報を多くのユーザーが利用し、それに比例して、新聞を見る人が激減したのである。
新聞はピンチに立たされたのか? 2023年7月、米の有力紙ニューヨーク・タイムズは、同紙のスポーツ報道部門を廃止すると発表した。大リーグ、アメフットなどスポーツの試合結果などの記事は、22年に買収したスポーツ情報専門ウェブサイトの「ジ・アスレチック」を活用して掲載するという。タイムズの編集幹部は、スポーツ部門の廃止に伴い、スポーツの試合や選手、チーム状況に関する報道を縮小すると説明した。今後は「スポーツが金や権力、政治、社会とどのように交わるのか」について焦点を当てた報道をめざす方針だと伝えた。
▽ニューヨーク・タイムズ廃止に衝撃
タイムズの紙面とデジタルのスポーツ報道は、今後、ジ・アスレチックに集約するという。タイムズのスポーツ部門で働いている35人を超える記者や編集スタッフは、他の部署に配置転換することに決めた。
このニュースを聞いて、東京の全国紙のプロ野球担当記者は青ざめた。「自分たちもそうなったら、どうしようかと不安が頭をかすめた。コロナ禍によって、取材対象者への直接接触が困難になり、取材陣の縮小が実際に起きているから、縮小したままになってほしくない。スポーツ担当記者が他部署へ配置転換させられたり、スポーツ紙へ異動されたりしたらやる気を失う者も多いだろう」
スポーツ紙記者にしても、購読者減からの取材制限措置を念頭に、将来の記者生活に疑問を抱いている者も多いという。とはいえ、「早く元の活発な報道態勢に戻りたい」というのが大方の本音である。
米国ばかりか世界的に高い人気と評価を得ているNYタイムズは、米大リーグの報道では、数々の歴史的な記事を載せ、日本人大リーガーのイチローや大谷翔平の特集記事を掲載し、日本のファンを喜ばせた。しかし、スポーツ報道部門を廃止したあと、ジ・アスレチックからの記事は掲載されるにしても、タイムズ独自の「鋭い濃厚な記事」は消えてしまうのであろうか。
▽日本のスポーツ編集は復活拡大を
日本では昭和時代から、プロやアマチュア野球における試合内容、勝負を決めた一投一打などの「真相」や「舞台裏」を、読者は翌日の新聞を読んで堪能し、理解を深めた。デジタル隆盛のIT社会においても、新聞の情報提供の高い娯楽性と価値は変わっていない。
野球はスポーツの最大の魅力であり、全国紙、地方紙、スポーツ新聞など活字媒体は、読んでわくわくする、読んで納得する、というかつての新聞黄金時代を復活させてほしいという声は根強い。スポーツ部門の廃止どころか、スポーツ部門の拡大充実こそ、野球人気復活ひいては日本の経済全体の回復につながる道なのである。(続)