「100年の道のり」(70)プロ野球の歴史-(菅谷 齊=共同通信)
◎いまだに残る試合時間55分
取っては投げ、ちぎっては投げ…9イニングを55分で仕上げた試合が行われたのは、1946年(昭和26年)7月26日のことだった。西宮球場での阪神vsパシフィックで、午後1時15分にプレーボールとなり、終了は2時10分。スコア1-0、阪神が勝利を収めた。
阪神の1点は6回。一死から呉昌征、金田正康の安打でチャンスをつかみ、土井垣武がタイムリーを放って挙げた。この最少得点を渡辺誠太郎が守り切った。55分はいまだに最短試合時間としてオフィシャルレコードに残る。
ともに完投した両軍右腕投手の投球数は渡辺が88球、相手の湯浅芳彰が93球だった。34歳の渡辺は182㌢71㌔の大型、27歳の湯浅は166㌢60㌔の小型。対照的な投げ合いだったが、渡辺は三塁を踏ませなかった。
渡辺はこの年、生涯1度の10勝をマークし、2度の完封を記録した。対する湯浅のこの年は3勝12敗と散々な出来で、翌47年限りで球界を去った。
試合時間55分は、実はそれまでの最短記録を破ったのである。短縮した時間は“1分”だった。6年前の40年(昭和15年)8月11日、大連での阪神vs阪急で56分という記録をつくった。阪神の若林忠志80球、阪急の森弘太郎77球で合わせて157球だった。最短試合時間は更新されたものの、両軍最少投球数は現在でも記録である。
55分だと1イニング6分平均になる。好守交代を駆け足で行う高校野球でも1時間を切るのは難しい。渡辺と湯浅の1イニング投球数を振り返ると、ともに10球程度になる。打者は早いカウントから、ファーストストライクから打ちにいったことが分かる。球種は少なかったからサインも簡単だったのだろう。
テレビやラジオ中継が激減した現在、確実に2時間未満で試合が終われば電波放送が復活するのではないか、と思う。55分はさすがに無理だろうが、もしそれが可能だったら電波は喜ぶに違いない。(続)