「いつか来た記者道」(66)-(露久保孝一=産経)
◎青空と緑が見える野球場が好き
緑に覆われた公園やイチョウ並木を歩くのは、誰もが癒された気分になる。野球場は樹木や森に囲まれた中にあれば、すがすがしい気分で観戦でき、選手は開放感に浸ってプレーできるはずである。現在、プロ野球は東京ドーム、ベルーナドーム(西武ドーム)、京セラドーム大阪など半球形の天井や屋根に覆われた球場での試合が主流となっている。文字通り「太陽と緑のある球場」を本拠地にするチームは、減少している。
しかし、全国には緑豊かな自然に囲まれた野球場は少なくない。東京には、巨人三軍も使っている町田市営小野路公園野球場、神奈川県藤沢市に女坂スポーツ広場野球場、秋田県横田市に山内野球場、さらに山口県に山口マツダ西京きずなスタジアムがある。いずれの球場にも、外野の後方に山々や豊かな樹木があり、観客は緑の眺望を見つめながら、グランドのプレー観戦を楽しめる。
札幌市には円山球場があり、左翼後方に森林の山々が見える。昭和時代には、プロ野球公式戦が活発に行われた。「あの山に向かってドカーンと打つよ」。ヤクルトの大杉勝男は、バットを山に向けて笑ったものである。
やっぱり、野球は青空の下、開放的な自然の中でやるのが一番だ、とほとんどのファンは感じている。天井が覆われたドームやビルの谷間の球場では、緑の中で味わう爽快感はない。最近になり、アマチュアスポーツ界では、地球環境保護が重要視される時代に沿って、野球場も自然を取り入れた競技場にしようという声も出ているという。
▽建て替えられる神宮球場、緑は?
自然と調和した競技場と公園といえば、都心に明治神宮外苑がある。その神宮の森が、再開発計画で揺れ動いている。神宮球場と秩父宮ラグビー場を建て替え、球場に隣接して商業・オフィスが入る高層ビル3つを建設する「神宮外苑まちづくり」の大規模プロジェクトがそれである。三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事が事業者として立案し、2021年12月に東京都が詳細を公表した。
この計画に対して、新しい神宮球場の西側に位置する美しいイチョウ並木の風景は損なわれるなどとして住民、文化人らから反対運動が起きている。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関の国際記念物遺跡会議(イコモス)からは、23年9月7日に再開発中止を求める警告が出された。事業者側は「オープンスペースや緑の場を増やして全体で憩いの場にしていきたい」と説明し、情報発信強化に努めている。
神宮外苑は、日本初の風致地区として100年にわたり緑の景観が守られてきた。その中で、神宮球場は東京六大学やヤクルト本拠地として親しまれている。太陽と森の見える球場を造るなら誰もが拍手を送るだろうが、そのイメージと逆行する球場が造られるかもしれないとしてファンも成り行きを見つめている。神宮外延再開発問題は、24年以降も続きそうであり、当欄は野球を愛する人たちとともに神宮球場の将来を注視していきたい。(続)