「プロ野球OB記者座談会」第2回(2017年)

テーマ 世界一を決める大会は必要か。

〔出席者〕司会・田中勉(時事通信)、大場宇平(報知)、岡田忠(朝日)、荻野通久(日刊ゲンダイ)、島田健(日本経済)、菅谷齊(共同通信)、高田実彦(東京中日スポーツ)、露久保孝一(産経)、真々田邦博(NHK)、

(敬称略。選手名の所属チームは、当時の球団名とし、複数の球団に所属した場合は最も活躍した時代の所属とする)

司会・田中 「テーマは、世界一を決める大会は必要か。現在4年に1度行われているワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は2006年からスタートし、今年3月で4回目を終えたが、開催の時期や実施方法などについて数々の問題点が指摘されている。こういう大会は必要ないという意見もあるかと思うが、あった方がいいとする場合、大会の形式や時期などはどうあるべきか、などについて意見をうかがいたい」

▽ベストメンバーが出ないWBC

高田 「世界一を決める大会をやるなら、やはり秋にやるべきだ」

島田 「秋は、プレーオフ、ワールドシリーズを戦ってきて、ヘトヘトの大リーグ(MLB)の選手たちが真剣勝負をやれるはずがないし、やりたがらない。なかなか難しい」

田中 「3月に予選リーグをやって、7月のオールスターの合間に本戦をやったらどうか、という案も以前に出たことがあるようだが、実現には至っていない。日本もその案には賛成していないようだ」

高田 「WBCはMLBが主導して始めたが、何でそもそもこういう大会を始めたのか」

島田 「MLBの商品を世界で売るため。日本でも今は帽子やユニホームやら大リーグのグッズを売っている。今は日本野球機構(NPB)も日本代表のグッズで商売を始めているが…」

菅谷 「さかのぼれば昔、ベーブ・ルースも来日したことがある。あれも大リーグの普及の一つだった」

露久保 「世界大会は魅力はある。視聴率も取れる。サッカーのワールドカップを見ても、日本代表の試合は盛り上がるし、話題もできる」

菅谷 「世界大会をやる以上は大義が必要だ」

露久保 「大義はファンのため、野球の普及のため」

菅谷 「それはきれい過ぎる。プロである以上、お金も大事な要素だ」

▽MLBによるMLBのためのWBC

真々田 「お金と言うなら、現状のWBCはMLBの金儲けが目的というのははっきりしている。WBCはMLBによるMLBのための大会と言っても過言ではないだろう」

田中 「WBCは、MLBとMLB選手会が出資してつくった共同運営会社が主催している。主催者がWBCで集めている金額は40億円とも45億円とも言われている。その中から優勝チームをはじめ大会出場国への賞金総額はその半分以下だろう。経費を引いてMLBがどれくらい稼いでいるかは分からないが」

岡田 「MLBが言い出しっぺなのに、一流どころの選手が出てきていない。いびつな大会になっているね」

島田 「MLBの各チームのファンは自分のチームが一番大事だ。ナショナルチームより」

田中 「真の世界一を決めるとすれば、開催場所にしても公平ではないし、主催者も世界をカバーする中立的な機関がやるべきだ」

菅谷 「だいたい野球をやっている国が世界で少ない。まじめにやっていのは米国、日本、韓国などせいぜい世界で5つか6つ」

大場 「どうしてヤクルトのバレンティンがオランダ代表で出てるの、と思ったよ」

田中 「両親のどちらかがその国の国籍などを持っていればOKというように、どこの代表になるかは相当緩い条件になっている」

▽難しいベースボールの普及

菅谷 「ロシアにも野球に似たような競技があるらしい」

岡田 「野球をやっているわけではないのかな」

荻野 「青田昇(巨人)がロシアに指導に行ったこともあるので、細々とやっているかもしれない」

島田 「野球の原型はクリケット。英帝国の名残りがある国・地域は今でもクリケットが盛ん。野球はあまりやっていない」

菅谷 「リトルリーグまではかつて台湾も強かった。ただ、用具をそろえる費用もかかるし、なかなか世界に普及させるのは簡単ではない」

真々田 「競技場の問題もある。野球場というのは、多目的に使用しづらい。五輪でも野球が外されるのは、後利用の問題などがあるから」

荻野 「ラグビーの5カ国対抗のように、強くて盛んな国が参集して盛り上がるということもある。今は7カ国対抗なのかな。だから、何も力がない国を無理に入れてやる必要もないのではないかと思う」

露久保 「野球は世界的なスポーツではないのは確か。しかし、日本、米国ではナンバーワンのスポーツだ。盛んな国、人気、実力のある国だけが集まってやればいいのではないか」

大場 「WBCの評判は悪いが、第1回大会は盛り上がったね。王監督が指揮を執ったとき。キューバとの決勝戦は、テレビにかぶりついた。視聴率も相当良かった」

露久保 「そう。確かにあれは盛り上がった。イチローも出場して頑張ったから」

田中 「第2回大会も原監督で連覇を果たした。決勝戦の相手は韓国だった」

露久保 「唐突なようだが、日本の夏休みは世界的に見ても短かすぎる。日本のレジャー、文化を拡大するためにも、7月から8月に長い休みを取れるようになったらいい。この時期にいろんなことをやるのはいいかもしれない。1カ月くらいかけて野球の世界大会をやるというのも全くの夢ではない」

島田 「どこで大会をやるかにもよるが、今のように米国でやるとするなら、日本から行くとなると往復の期間を含めて最低2週間は必要だろう」

荻野 「合宿もやるとすれば、1カ月近くは必要だ。7月いっぱいはかかる」

菅谷 「それをやったら日本のプロ野球はつぶれる。それが大義のない大会なら、なおさら」

島田 「WBCは米国のための大会。どうして日本が犠牲を払う必要があるのか」

▽真の世界一の大会を

菅谷 「ゲートボールの世界大会には4カ国しか参加しなかったが、それが最高峰の戦いとなれば、お金も集まる。メディアも付く。参加国の数より、真の世界一のレッテルが重要だ」

高田 「そういうことも確かに言える」

菅谷 「選手にとって大事なのは、出場してけがをしたらどうしようもないこと。選手会が出場しないとなったら、何もできない。アピアランスフィー、けがの補償問題なども大事だ。今、果たしてどこまで補償されているのか。大谷(日本ハム)の昨季の不調は、けがが原因。昨年の日本シリーズでけがをしたとのことだが、その後の日本代表での練習などでけがを悪化させた可能性もある。そして山田(ヤクルト)、中田(日本ハム)も大きく調子を崩した」

露久保 「坂本(巨人)もだめだった。筒香(横浜)もそう。後半戦に復調したが、前半はひどかった。松田(ソフトバンク)もね」

島田 「日本人大リーガーが出られるようにしてほしい。田中(ヤンキース)、ダルビッシュ(カブス)が出ないWBCではどうしようもない」

田中 「MLBの球団が選手との契約の中でWBC出場の許諾権を持っているケースが多く、選手本人が出場したくても球団がだめとなったら出場できない」

荻野 「そもそも米国がWBCを世界一の大会と思っていないのに、おかしなことになっている感じがする」

菅谷 「大谷に話は戻るが、今季どれだけ試合に出られたか。最後にホーム球場で完封したが、これが日本での最後の投球になるかもしれないと思うと、複雑な心境だ」

田中 「皆さんのこれまでの話をまとめてみると、本当の世界一を決める大会なら日本も相応の犠牲を払って出場するのはいい。しかし、そのためには中立的な機関が公平な形で主催し、選手への補償体制もしっかり整えたうえでやるべきで、その前提に立った真の世界一決定戦なら4年に1度、日本のシーズンを中断してもやる価値はある、ということになる。これでいいか」

岡田 「まあ、そういうことになるかな。しかし、中立的機関といっても、国際競技団体の世界野球ソフトボール連盟ではちょっと手に負えないだろう」

菅谷 「東京五輪でも日本のプロ野球は中断することになっている。五輪は地元開催ということもあるが、大義のある世界一の大会なら名誉を賭けて戦い、いろんな人に野球の面白さを知ってもらいたい」

田中 「有意義なご意見、ありがとうございました」

(了)