「大リーグ ヨコから目線」(荻野 通久=日刊ゲンダイ)

◎引退後の大リーガーいろいろ

▽ジーター52億円出資

 昨年の大リーグの大きな話題のひとつがマイアミ・マーリンズの身売り。16人による投資グループが12億ドル(約1300億円)で買収したのだが、その中にヤンキースで活躍したデレク・ジーターがいたことで、いっそう注目を集めた。
 ジーターの出資額は4㌫で約52億円と報じられた。現役時代、年俸やCM収入などで、200億円を上回る収入があったと言われるジーターならではだろう。ニューヨークのマンハッタンに超高級マンションを持ち、フロリダに大豪邸を建てるなど、女性関係も含めて現役時代から派手な生活ぶりはよく知られていた。
 ジーターはマーリンズのCEOに就任した。引退後も「マネー」でマスコミを賑わすジーターを見て、昨年8月6日、68歳で亡くなったドン・ベイラーのことを思い出した。ベイラーは打点王やMVPに輝くなど、スラッガーとして活躍。エンゼルスなどメジャーで19年間プレーし、その後、ロッキーズ、カブスで監督、メッツなどでコーチを務め、指導者としても高い評価を得た。

▽ベイラーとオレンジジュース

 1990年(平成2年)だったと記憶している。そのベイラーが藤田元治監督率いる巨人のグアムキャンプで臨時コーチを務めた。筆者も取材に同行した。ある日、練習を終え球場から車で帰る途中、ベイラーがホテル近くの歩道を歩いているのに気づいた。手にはビニール袋を持っている。単独取材のチャンスと車を降り、声をかけた。
気になっていたので、何を持っているのかを尋ねた。
「オレンジジュースだよ」
 と言って見せてくれた袋の中には缶ジュースが4、5本入っていた。
「ジュースならホテルの部屋やロビーの自動販売機でも手に入るのでは」
 と聞くとこう答えた。
「ホテルのジュースは高いんだ。だから近くのスーパーに買いに来たんだよ」
 高いといっても缶ジュースだ。ホテルで買ってもせいぜい差額は2、3ドルだったろう。
 ベイラーはスター選手だったし、巨人からもそれなりのギャラを支払われていたと思う。金には困っているはずはないが、それでも数ドルの差額にこだわる姿に「有名な大リーガーが……」といささか戸惑ったものだった。 

▽グアムでは知らぬ人も

 話をしながらベイラーとショッピング街に行き、メンズショップに入った。アメリカ本土なら「ドン・ベイラーだ!」と大騒ぎになったかも知れないが、グアムでは店員の誰一人知らなかった。ベイラーはがっかりしていたようだったが、ようやく野球好きらしい少年が気がつき、サインをねだられ機嫌を直していた。
 ちなみにベイラーは伸ばした手からボールを落として、それを打者に打たせるユニークな打撃練習も行っていた。バットの芯できっちりとボールを捉えるタイミングをつかむ練習法だった。(了)