偉大なる「惜別の球史」-巨人対南海シリーズ激闘(露久保孝一=産経)

▽長嶋、王、野村ら72人の侍

巨人の宮崎キャンプ60年とソフトバンク(南海、ダイエー)の球団創立80年を記念したジャイアンツvsホークスOB戦が2018年2月10日、宮崎市のスタジアムで行われた。総監督は巨人が長嶋茂雄(81)、ホークスは野村克也(82)が務め、往年のスター選手がプレー。試合は巨人が11-3で勝利した。
 巨人は王貞治(77)が「4番・指名打者」で先発出場。懐かしい一本足打法で、現ソフトバンク監督の工藤公康(54)と対決したが、空振り三振に倒れた。3番の松井秀喜(43)は右翼ポール際に特大のファウルを放ち、パワー健在を示すなど2安打。両軍合わせ72人が投げて打って1万7642人の観衆から拍手を受けた。
 長嶋は「やっぱり野球はいい」と声を弾ませれば、王も「久しぶりにバットを持って打席に入ると気持ちいい」と笑顔。野村は「顔見世興行だよ」と言いつつ「元気な姿を見てファンもホッとしたんじゃないか」
            

▽巨人V1とV9 南海で始まり南海で終わった

巨人、南海といえば、かつてはリーグの覇者として激突した強敵同士である。巨人は1965年(昭和40)9年連続日本一という不滅の大偉業を達成。その間、南海はV1とV9のときに当たった。巨人V9の幕開けと幕引きを務めたわけである。南海はその後、ダイエー、ソフトバンクと球団は変わったが、ホークスのニックネームは生きている。あれから45年。その思い出がよみがえった両軍の顔合わせであった。
 歴史を作った壮絶なシリーズを口にする選手はほとんどいなかった。一言では語り得ない数々のドラマがあったのだ。強すぎた栄光のチームは、V9を最後に消えてしまった。V9のあと巨人は連覇すらない、南海は南海ホークスとしてはその後シリーズに出場していない。惜別の舞台、65年(V1)と73年(V9)のシリーズの要点を振り返ってみた。
 

▽V1を引き寄せたミスターのバット

65年のシリーズは、主砲長嶋の活躍で巨人が4勝1敗で南海を下した。長嶋は第2戦の延長10回に決勝2ラン、第3戦でONアベックホーマーなど2本塁打、6打点、打率3割8分1厘で最優秀選手(MVP)に。「ワンちゃん(王)が徹底的にマークされていたのに、おれはノーマークだから打てた」とカラカラ笑って感激に浸った。王は3本塁打、4打点と貢献。投手は国鉄からスワローズ(現ヤクルト)から移籍したばかりの「黄金の左腕」金田正一と、この年リリーフで20勝を挙げた「8時半の男」こと宮田征典が2勝ずつ。
 南海は主砲野村の打棒がすべてだった。第1戦で一、二塁に走者をおいて三ゴロ併殺打で好機つぶしたが、最終5戦では1回に城之内邦雄のカーブをとらえてライナーの左翼2点本塁打。しかし南海は逆転負け。59年の日本シリーズで巨人を4戦ストレート勝ちのヒーロー杉浦忠が2敗。敗北のショックは大きく、表彰式には野村をはじめ主力選手は姿を見せなかった。

▽王の一発を長嶋コーチが祝福したV9

V9の73年、長嶋はケガのため試合には出場せず、一塁コーチに専念。第5戦で王が1回、逆転2ランを放つと、長嶋が祝福。打撃でのONそろい踏みはなかったが、一塁コーチに立ち声を張り上げた長嶋の姿はそれだけで絵になった。巨人はエースの堀内恒夫が第2戦で決勝打を放ち、第3戦では完投と2ホーマーの離れ 業を演じ最優秀選手に。
 V1の時と同じく1勝4敗で敗れた南海だが、その1勝は第1戦の江本孟紀の完投によるものだった。巨人にとってこの敗戦はV9最後の敗戦だった。プレーイングマネジャー4年目の野村は試合後、自分の目指した野球が巨人に劣るものではないことを確信した。
 栄光の物語の主役はやはりONだった。伝説的な西鉄ライオンズ黄金時代の後、ONを中心にプロ野球は、昭和30-40年代に花形スポーツとして爆発的な人気を誇った。激しく戦ったその時代には、まだまだ語られていないドラマが数多く残っている。(了)

巨人OB対南海OB戦 2018年2月10日KIRISHIMAサンマリンスタジアム宮崎
ジャイアンツOB 11 ― 3 ホークスOB
(勝)槙原(敗)山内孝 (本)堂上(満塁・3回、若田部)(二)小久保

出場メンバー
【ジャイアンツ】
総監督 長嶋 茂雄(81)   内野手 黒江 秀修(79)
投 手 金田 正一(84)       王  貞治(77)○
    城之内邦雄(78)       中畑  清(64)○
    堀内 恒夫(70)       篠塚 和典(60)○
    江川 卓 (62)       原  辰徳(59)○
    鹿取 義隆(60)       駒田 徳広(55)
    角  盈男(61)       福王 昭仁(54)
    定岡 正二(61)       福王 昭仁(54)
    川口 和久(58)       元木 大介(46)○
    宮本 和知(53)       仁志 敏久(42) 
    水野 雄仁(52)       古城 茂幸(42)
    槙原 寛己(54)       藤村 大介(28)
    桑田 真澄(49)先       
    前田 幸長(47)   外野手 張本  勲(77)
    高橋 尚成(42)       柴田  勲(74)
    岡島 秀樹(42)       清水 隆行(44)○
                   松井 秀喜(43)○
捕 手 森  祇晶(81)       高橋 由伸(42)○
    大久保博元(51)       堂上 剛裕(32) 
    村田 善則(43)○
    小田 幸平(40)      
    加藤  博(36)

【ホークス】
総監督 野村 克也(82)   内野手 小池 兼司(79)
投 手 宅和 本司(82)       藤原  満(71)○
    渡辺 泰輔(75)       山村 善則(62)
    村上 雅則(73)       河埜 敬幸(62)
    佐藤 道郎(70)       小川  史(57)
    上田 卓三(69)       藤本 博史(54)
    藤田  学(62)       湯上谷竑志(51)○
    山内 孝徳(61)       小久保裕紀(46)○
    山内 和宏(60) 
工藤 公康(54)先  外野手 梶田  睦(86)
    加藤 伸一(52)       広瀬 叔功(81)
    若田部健一(48)       新井 宏昌(65)○
    田之上慶三郎(46)      山本 和範(60)○
    斉藤 和巳(40)       秋山 幸二(55)○
                   岸川 勝也(52)
捕 手 鈴木 孝雄(79)       村松 有人(45)○
    坊西 浩嗣(49)       松中 信彦(44)○
    城島 健司(41)○      柴原  洋(43)

(注)先は先発投手、○は先発出場(指名打者・王、山本和範含む)