「菊とペン」(4)-(菊地順一=デイリースポーツ)

◎「私はこれで…」
2人の男性が、
「私はこれでたばこを止めました」
とにこやかに話すと、3人目の男性が小指を立てながら、
「私はこれで会社を辞めました」
と告白する禁煙グッズのCMが受けていた頃である。
 X投手は高卒で3年目だった。高校時代から実績を残し、その度胸満点のマウンドさばきで飛躍が期待されていた。春季キャンプでは一軍に抜擢された。
 高校時代からやんちゃで知られ、すでに数々の武勇伝があった。そんなだから、キャンプ地でおとなしくしているはずがない。問題、それも小指の問題
をやらかしたのである。
 当時、野球選手は結構派手に遊んでいた時代だった。毎週のように週刊誌、写真雑誌を賑わせていた。それだけ野球選手は人気があって世間の注目を集めていた。
 いまはどうか。
コロナ騒動の自粛期間中に女性と飲んでいた。自宅に女性の知人を呼んでいた。せいぜいこの程度である。
 このX選手はキャンプのホテルが一人部屋だったことを利用して女性ファンを連れ込んだのである。3年目の20歳、球団も期待すればこその1人部屋だったのに、悪用だ。
 ところが、2人の秘め事がなぜか週刊誌にキャッチされて大見出しとともに報道されてしまった。
女性の告白だった。
 この告白に金が絡んでいたかどうかは定かではない。まあ、要するにハメたつもりが、ハメられたのである。
 もちろん、ペナルティで二軍落ちだ。二軍監督はXを選手ミーティングに呼んで、
「反省の弁を述べよ」
と命じた。 Xはマジメな顔で立ち上がった。静まり返っている。そこで小指を立てて一言。
 「私はこれで一軍を辞めました」
 ドッと上がる歓声。口をあんぐりさせる二軍監督。Xは笑っている。
 Xはその後、このスキャンダルにもめげず、一時はローテーションの一角を担う活躍をした。このくらいの図太い神経がなければプロでは生き抜けないし、大成しないということなのだろう。
 だからと言って、私は女性スキャンダルを勧めているわけではない…。(了)