第29回 「宿命」-(島田 健=日本経済)

◎人生の応援歌
▽ストリーミング再生1億回超
 ファンキー・モンキー・ベイビーズの「あとひとつ」と同じ、朝日放送(ABC)の夏の高校野球番組「熱闘甲子園」のテーマソングとして作られた。
題名からすると硬い、重い感じがするが、ブラスサウンドも入れた明るい力強い曲で、2019年(令和元年)7月9日の先行配信から、20年5月20日までにインターネットのストリーミング再生で1億回を超えた。
「心臓から溢れ出した声で 歌うメロディ 振り向いた未来 君からあふれ出した声と 合わさって響いた 群青の空の下」
青春である。
▽変な名前の新鋭グループ
 作ったのは28歳の藤原聡をリーダーとする4人組の「Official髭男ism」。ベースやサックスを担当する楢崎誠が考え出した名前は「オフィシャルヒゲダンディズム」と読む。
人を食った名称だが、思いつきだそうで、誰も髭をはやしておらず、
「髭の似合う年齢になっても、誰もがワクワクするような音楽を同じメンバーで作っていきたい」
というのが後付けの理由だそう。
月9(月曜9時から)ドラマの主題歌「ノーダウト」で人気沸騰したが、宿命をつくるにあたっては同じ年の選抜高校野球を全員で見に行ったという。
▽2人はブラスバンド部
 藤原と楢崎は高校時代、吹奏楽部に在籍し、実際に高校野球予選ではスタンドで応援した経験がある。
サビは、
「奇跡じゃなくていい 美しくなくていい 生きがいってやつが光り輝くから 切れないバッテリー 魂の限り 宿命ってやつを 燃やして暴れ出すだけなんだ」
切れないバッテリーに野球らしさを感じるが、全体としては一生懸命生きている人のための応援歌と言えそうだ。人生の応援歌でもある。そんなところが、夏の高校野球が終わっても長い人気を保っている秘訣だろう。
▽言葉が不要な奇跡
 ABCのサイトで藤原は、
「サビで美しいものばかりじゃなくていい、奇跡も起こらなくていいという歌詞があるのですが、これは僕の伝えたかった思いです。試合の中にドラマや奇跡のようなことがなくても、選手や応援団も含めた「勝ちたい」「戦いたい」「応援したい」という思いに、言葉が必要ないくらいの素晴らしい奇跡が起こっている。そんな思いを込めたつもり」
と語っている。
20年、102回目となるはずだった夏の高校野球は中止となった。当事者の「勝ちたい」「戦いたい」「応援したい」という気持ちが、必ず新たな奇跡を起こしてくれると信じたくなる唄でもある。
検索は「ヒゲダン 宿命」。(了)