「野球とともにスポーツの内と外」(31)-(佐藤 彰雄=スポーツニッポン)

◎「プロスポーツの有料放送化」
 プロスポーツのこれまで当たり前だったテレビによる試合中継の形に一つの転機が訪れたようです。
 かつてプロ野球は、定着度と人気を含めてテレビにとっては安定したコンテンツとして各局が地上波での試合中継を競い合っていました。それが時代の流れとともに関心が薄れ「(試合が)長い」「(内容が)面白くない」との声が上がり低迷。テレビも視聴率の低下とともに昨今、地上波での中継は極端に減りました。そんな情勢にあって代わって台頭してきたのが「DAZN(ダゾーン)」などスポーツ専門の定額制動画配信サービス各社による有料生配信のシステムです。
▽プロボクシングはPPVへ移行
 プロボクシング界ではこのほど、WBAスーパー&IBF世界バンタム級統一王者・井上尚弥(28=大橋)のWBA6度目、IBF4度目の防衛戦(12月14日=東京・両国国技館)が、NTTぷららの映像配信サービス「ひかりTV」と「ABEMA」によって「PPV(ペイ・パー・ピュー)方式」で生配信されることが発表されました。
同様に12月29日(さいたまスーパーアリーナ)で開催されるWBA世界ミドル級スーパー王者・村田諒太(35=帝拳)対IBF世界同級王者ゲンナジー・ゴロフキン(39=カザフスタン)の王座統一戦も「Amazonプライムビデオ」によって生配信されます。井上、村田の国内での試合はこれまでフジテレビが地上波で放送していましたが、年末を彩るファン垂涎のこれらビッグマッチ2連発は今回、地上波では観(み)られず、視聴するには課金が必要になりました。
 PPVは、配信される1コンテンツにお金を払って視聴するシステムですが、これは米プロボクシング界を中心に発展してきています。ボクシングで初めて本格的に取り入れられたのが1975年10月のモハメド・アリ対ジョー・フレイジャー戦。1980年代、3団体統一世界ヘビー級王者マイク・タイソン(米国)の出現でPPVは欠かせないものとなります。ビッグマッチと巨額のビッグマネー。PPVでの収入は資金源としてなくてはならないものとなっていきます。
▽忘れられる少年・少女の夢
 地上波では観られない、課金を必要とする動画配信サービスによる今回の井上の試合について所属する大橋ジムの大橋秀行会長は「PPVはボクシングがこれから進まなければならない道だと思っている」と話しました。確かに村田の試合にしても、ふくれあがる興行費用は、これまでの地上波による放映権料では賄い切れないものがあることでしょう。
 が、各種スポーツの頂点に立つプロ部門は、野球にしろサッカーにしろ、将来を夢見る少年・少女たちに憧憬される立場にあります。プロ野球のヤクルトとオリックスが激突した今年の日本シリーズは、観る側をあきさせない好勝負の連続となりました。テレビをつければ、野球が観られた、サッカーが観られた、ということがなくなると…もたらされる新しい形は何か大事なものを置き忘れてしまっているような気もします。(了)