第55回 ナッシング・アラウンド(島田 健=日本経済)

◎無からのスタート
▽作詞野茂英雄
野球の唄を扱ってきたが、その物ずばりを内容とした本があることを知らなかった。ひとつは音楽評論家のスージー鈴木さんがベースボールマガジンに連載した音楽コラムをまとめた、「いとしのベースボール ・ミュージック」(2019年リットーミュージック)で、二つ目は22年にでたばかりの「ベースボール・イズ・ミュージック」(左右社、オカモト“MOBY“タクヤ)である。後者はまだ目にしていないが、鈴木さんの本にはインスパイアーされる(パクれる)曲がたくさんあった。まず驚いたのが「作詞野茂英雄」である。作曲はジェイムズ下地。
▽石橋貴明と交流
帝京高校野球部出身のとんねるず、石橋貴明はスポーツ界に幅広い人脈を持っているが、野茂英雄との出会いはかなり古い。87年ごろまだアマチュア時代の野茂が石橋の出演しているラジオのオールナイトニッポンに遊びにきたそうだ。海外遠征の途上で東京に来ていて暇潰しに訪れたようだが、とんねるずファンでもあったらしい。以後も交流は続き、野茂がメジャー入りした95年にとんねるずが出した「おまえ百までわしゃ九十九まで」の中の一曲としてリリースされた。
▽何にもない
掟破りと批判されながら米大リーグ入りした野茂。しかも当時はストライキが完全には収束していなくて開幕も4月25日だった。野茂がキャンプ入りしたのは3月4日だった。たった一人の挑戦で知る人もほとんどいないフロリダはドジャータウン(現在はアリゾナ)。歌詞は「何もないところ 夕方に来て 施設を見た 本当に野球しかないと感じた」というもの。繰り返しは「ナッシング アラウンド」と「ここはマジで何もない」。まさにゼロからのスタートを象徴するような言葉だ。作詞とはいうが、石橋が電話で聞いた感想をそのまま言葉にしたのではないかと思わされる。
▽成せば成る
副題は「成せば成る」と付けられている。それからの野茂の奮闘はご存じの通り。日本人選手の米大リーグでの活躍の道を開いた訳だが、こんな心細い環境にも耐え抜いた精神力の強さに改めて気付かされる。とんねるずのふざけ方はあまり好きな方ではないが、石橋の野茂との友情が感じられる唄である。石橋の選ぶ日本人大リーガーの1位はイチローでも大谷翔平でもなく常に野茂英雄だそうだ。検索は「とんねるず nothing around(成せば成る)」(了)

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