「大リーグ見聞録」(55)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)

◎安倍元首相銃撃で2013年のニューヨークを思い出した
▽「STOP!STAY HERE!」
「ずいぶん警官がいるなぁ」
 2013年7月、私は大リーグのオールスターゲーム(現地16日、メッツの本拠地シティ・フィールズ)取材のためニューヨークにいた。たまたま半日ほど、時間の余裕ができたので友人と市内のヒルトンホテルに向かった。ホテルの地下に日本の旅行会社の現地支店があり、空いた時間の活用を相談にするためだった。ホテルに近づくとパトカーがズラリと並び、大勢のニューヨーク市警の警官が立っていた。
「何か事件でも起きたのかな?」
 そう思いながら旅行会社のオフィスを訪ねた。30~40分ほどして階段を上り、一階のロビーに戻ろうとしたときだ。大柄な警官が両手を広げた。
「STOP!STAY HERE!」
 と聞こえた。見ると私たちだけではない。観光客も宿泊客もその場で立ち止まっている。「やっぱり何かあったのだ」と不安に駆られていると、観光客が警察に話しかけているのが聞こえてきた。「プレジデント(大統領)」という言葉が耳に残った。オバマ大統領(当時)がこれからホテルに来る。だからしばらくはその場を動いてはいけない、ということのようだ。それで少し前に見たパトカーの列も、多くのポリスも納得がいった。警官は何時間も前にホテルに来て、内部をくまなくチェックし大統領の到着に備えていたのだろう。
 5分かあるいはもう少し長かったか、正確な時間は覚えていないが、やがて足止めは解除された。オバマ大統領が通り過ぎ、然るべき会場に入ったことが確認されたからだろう。私たちはホテルを出た。オバマ大統領の姿はチラッとすら見ることができなかった。水も漏らさぬというか、ネズミ一匹通さない警備だった。
▽オバマ大統領の始球式
翌日、新聞を読むと、同ホテルで全米黒人大会が開催され、オバマ大統領がゲストスピーカーとして出席したとあった。
 突然、こんなことを思い出したのは去る7月8日、安倍晋三元首相が奈良市の近鉄大和西大寺駅付近の路上で凶弾に倒れたからだ。参議院選挙の遊説中だった。現職と元職、屋内と屋外、社会情勢などいろいろ違いがあるとはいえ、日米のVIP警備の差に改めて驚いた。   
09年のセントルイスでのオールスター戦でオバマ大統領が始球式を務めた。そのときも取材で現場にいたが、球場に入、退場する大統領をまったく見ることはできなかった。遠く離れた記者席からFIRET PITCH CEREMONY(始球式)の大統領を双眼鏡でのぞくだけだった。
 ちなみに13年の夢の球宴は3-0でア・リーグが勝った。MVPには8回に登板し、1イニングを3者凡退に抑えたヤンキースのマリアノ・リベラが選ばれた。その年限りで引退を公言していた名クローザー(652セーブはMLB最多)へのはなむけのMVPと言われた。(了)

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