「いつか来た記者道」(24)-(露久保孝一=産経) 

◎江夏「独眼竜政宗」が最高視聴率
 2020年のNHK大河ドラマ、戦国時代の明智光秀を描いた「麒麟がくる」が話題を呼んでいる。日本人には時代劇ファンが多く、大河ドラマはその趣向にマッチした国民的番組で、かつては年間平均30%以上の視聴率をあげていた。
 この大河ドラマに、プロ野球選手も何人か出演しているが、おやっ、あの人がと思われるのは阪神のエースだった江夏豊投手である。移籍した南海、広島、日本ハムでもリリースエースとして活躍した。
 江夏は、現役引退後の1987(昭和62)年、「独眼竜政宗」に出演した。戦国時代、主人公の伊達政宗の側近である屋代勘解由(やしろ・かげゆ)を演じた。寒い冬、正月のロケに参加した江夏は、にこにこ顔で撮影に臨んだ。元来、歴史小説が好きで司馬遼太郎の「竜馬がゆく」や「坂の上の雲」を始め、数多くの本を読んでいた。そのため、「独眼竜政宗」の出演には大喜びで引き受けた。政宗役は阪神の大ファンで知られる渡辺謙だったため、意気投合して話し合う場面もあったという。江夏は武将に扮して、勇ましい侍の演技を披露した。
▽イチローは実名で恐ろしい殺人犯に
 プロ野球選手では、他に「大魔神」佐々木主浩が米大リーグ・マリナーズ在籍中の2003(平成15)年、「武蔵MUSASHI」に出演している。また、元阪神の嶋尾康史、元ヤクルト、巨人の長嶋一茂も大河で演じている。
 大河ドラマではないが、民放のドラマに出演して熱演したのは、イチローだった。マリナーズ時代の2006年、フジテレビ系の人気番組で最終作となる「古畑任三郎ファイナル」の「第41回:フェアな殺人者」に出演し、殺人犯を演じた。当初は架空の選手としての登場予定だったが、イチローは自ら希望して「イチロー」の役となった。しかし、殺人を犯しているため、選手としてのイメージがあり、「名前は一緒だがあくまで本人とは別物」という断り書きがつけられた。イチローは、堂々としたセリフで、田村正和演じる警部補の古畑任三郎と厳しく対決した。
▽プロ野球選手自身を描くドラマを
 江夏、佐々木、イチローらは、役者になりきって演じており、「野球と同じ、さすが勝負師の集中力はすごい」とテレビディレクターから称賛された。江夏出演の「独眼竜政宗」は、史上最高の年間平均視聴率39・7%を記録した。江夏の迫力が視聴率をあげた、という話はないが、トップ視聴率番組に出演して花を添えたことは確かである。
 プロ野球選手自身を描くドラマが、アニメではなく、ノンフィクションとしてお茶の間に登場すれば人気を呼ぶという人も多い。昔の「あこがれのプロ野球」が、ドラマから戻ってくるかもしれないのである。(続)