「セ・リーグDH採用で球界が変わる?」-(山田 收=報知)
第6回 DH制でパの野球が変化した
前述したように、DH制は、素晴らしい選手を誕生・復活させ、パ・リーグの歴史を彩った。単純にいえば、一般的に打撃力の劣る投手に代わって、打てる野手が加われば、打線の力は上がる。もちろん、かつて球界を代表するエース達―別所毅彦、金田正一、米田哲也、平松政次、堀内恒夫など―や最近の大谷翔平のように、バッティングでも稀有な才能を持った男たちもいた。
とはいえ、大部分は送りバントが主な仕事とみられる投手と、バット1本に掛けた野手とは戦力的に大きな差がある。確実に1アウトと見られていた局面がないのである。“息抜きタイム”がなくなれば、当然試合は密度の濃いものになる。同時に投手は投球に専念できることにより、疲労・故障のリスクを少しでも回避でき、打者との勝負の醍醐味を観衆に訴えかけられるからだ。
ある統計によると、2019年のシーズン、各球団の投手が立った平均打席数は、セが269、パが19.3。その差250打席。そこに野球を見る楽しさがある、という見方もできる。
DH制の副産物は、息の抜けない打線を相手にすることで、ピッチャーの力がアップすることだ。パ・リーグは伝統的にパワーピッチャーが主流だが、その傾向はさらに強まっているのではないか。例えば、ソフトバンクの投手陣には、千賀、武田、森、モイネロらに加え、今年になって売り出した笠谷を始め、泉、川原ら球速150㌔を優に超える投手が数多くいる。
彼らの繰り出す剛速球に、それを跳ね返す打線との対決は、プロの妙味であり、見るもののワクワク感を刺激し、両者のレベルアップへとつながっている。爆発力のある打線が、優れた投手を育てる、好循環が生まれていると感じる。間違いなくパの野球は面白い。
2020年のMLBは、変則60試合のレギュラーシンズンと両リーグ8チームずつによるポスト・シーズンゲーム(PS)で行われたが、ナ・リーグも含めて全試合でDHが採用された。コロナ禍でPSもディビジョン・シリーズ以降は中立地の球場で開催という異例の事態にもかかわらず、違和感はなかった。
振り返って日本ではどうだろう。セ・リーグでもDH制採用へ、の声もある。次回は採用しない論理を考察してみる。(続)