「野球とともにスポーツの内と外」-(佐藤 彰雄=スポーツニッポン)

◎柔よく剛を制す
柔よく剛を制す、と言います。「温柔な者がかえって剛強な者に勝つことが出来る」(広辞苑)という意味。解釈の範囲を広げれば、体の小さい者が大きい者に勝つ、などにも例えられ「侮れない非力の底力」についての言葉です。
この表現はいかにも武道的ですね。富田常雄著の柔道小説「柔」の中でも、体が小さく非力な主人公の矢野浩(後に正五郎)が、力の強い大男を“理と力”の法則で投げ飛ばす術の妙が描かれています。読み手の心を躍らせる格闘技の原点“無差別の戦い”ですね。
▽注目される桑田発言
このほどプロ野球・巨人の一軍投手チーフコーチ補佐に就任した桑田真澄氏(52)が、この言葉を使いました。1月24日のNHK総合テレビ「サンデースポーツ」(午後9時50分~)で同番組のコメンテーターを務める上原浩治氏(45)と対談を行った際です。
今さら紹介するまでもないことですが、PL学園→巨人で投手として活躍、MLB(パイレーツ)にも籍を置いた桑田氏は、現役引退後、早大大学院スポーツ科学研究科修士課程で修士を取得するなど指導者としての知識を身につけています。
桑田氏の後輩にあたる元巨人投手、MLBで活躍後、現在は野球解説者を務めている上原氏は、日本シリーズでソフトバンクのパワーの前に太刀打ちできなかった巨人の最大の課題は“ソフトバンク対策?”と水を向けましたが、桑田氏は「ン? ソフトバンクは意識の外ですよ」と意外な答えを返し「柔よく剛を制す」を口にしたのです。
▽肩透かしの“理と力”作戦で…
面白いですね~。桑田氏というのは、そういうところに目を向ける人なのですね。つまり、相手のパワーに160キロで対抗しようとすれば、ぶつかり合ってどちらかが倒れるだけでしょ、それより140キロだって勝つことが出来るんですから、その方法をとことん選手と話し合ったほうがいいですよ、という考えです。
そういえば大栄翔(追手風)の平幕優勝で盛り上がった大相撲初場所(1月24日千秋楽=東京・両国国技館)はまた、9勝を上げた新入幕の翠富士(伊勢ケ浜)が、5勝までを「肩透かし」で勝ち取るなど、相手の力を巧みに利用する小兵力士の活躍が目を引きました。
さて今季の巨人投手陣、きっとこの肩透かしの“理と力”を桑田氏によって植えつけられるかも知れませんね。(了)