◎夏寒し、不振監督の首筋ー(菅谷 齊=共同通信)

プロ野球のペナントレースは夏場に行方がほぼ決まる。優勝争いのチームは酷暑でも元気だが、不振チームの監督は猛暑にもかかわらず首筋にヒヤリと感じるという。そう、クビの不安である。
 そして秋。ある監督から自宅に呼ばれた。「オレはどうなる?」と暗い顔で尋ねてきた。この方は3年契約を結んで指揮を執ってきたが、1年目に続き2年目も最下位争いし、球団フロントの冷めた態度が気になって仕方がなかったのだ。
 「球団代表は何か言ってきているんですか、来年のことで」
 「いや、何も…。だけど、周りがおかしいんだ、寄ってこないからな」
 「そりゃ、危ないですね」
 「3年契約だぞ」
 「関係ありませんよ、残り1年分の年俸を払えば終わりですからね」
 これで会話が途切れた。「じゃ、本社に聞いてあげましょう」と電話を取った。この球団の親会社にルートを持っていたので幹部に尋ねた。数分で済んだ。
 「ダメですね。アウトです」
 解任は決まっており、この日に本人を本社に呼び、解任を伝えるという。それならば、と対処法をしょげている監督にアドバイスした。ユニホームを脱いだ後は評論家として仕事をするということなので、素直に敗戦を認め言い訳をしないように、と伝えた。野球界は狭い世界だから所属したチームとけんか別れ状態になると活動に支障が出る、という意味を説明した。話す内容のメモを渡した。
 その通り解任となった。残りの年俸は頂けるということだった。
 この方は高校時代から有名で、大学でもスラッガーとして鳴らし、プロでも3割打者になった。しかし、さい配となると、バットコントロールのようにはいかない。就任2年目の真夏には選手からの信頼が薄れていた。首筋に冷たいものを感じた寒い真夏だった。
 新監督として入団発表の華々しさを思うと、勝負の世界は厳しいけど、ダメなものは捨てる、という正直な世界でもあったと思う。(了)