「大リーグ見聞録」(57)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)

◎投手・大谷はやっぱり天才
▽わずか2か月でシンカーを習得
 大リーグもいよいよ終盤戦。優勝争い、プレーオフ出場争いとともに、大谷翔平(エンゼルス)とアーロン・ジャッジ(ヤンキース)のMVP争いもますます激烈化してきた。大谷は昨季、果たせなかった2桁勝利、2桁本塁打を達成(14勝8敗、34本=29日現在、昨季は9勝、46本塁打)。実に1918年のベーブ・ルース(13勝7敗、11本)以来の快挙だ。
 その投手・大谷のピッチングを進化させたのがシーズン途中から投げ出したシンカーだ。7月6日(現地)のマリナーズ戦で初めて1球だけ投げた。16日のマリナーズ戦では6球と試運転という段階だったが、9月3日のタイガース戦では全111球のうち18球がシンカー。8回を1失点に抑えて勝利投手となった。
 プロ野球でも新しい球種をマスターするには2、3年はかかると言われる。シンカーが決め球だった山田久志(元阪急、現オリックス)も「シンカーを自在に投げられるまでには数年かかった」と話している。
秋あるいは春のキャンプから練習し、シーズンを通して投げ、試行錯誤を繰り返してマスターするのが普通だ。もちろん、習得できず断念するケースもある。それが捕手のスタッシーは「(大谷のシンカーは)ピンポイントに投げられている。新しい球種なのに」(3日の試合後)と驚いた。しかも曲がり幅がなんと21インチ(約51㌢)。もちろん練習はしていたのだろうが、だからといって簡単にできることではないだろう。
▽「投げようと思えばいつでも」 
1961年にシーズン最多の42勝(14敗)を挙げて「鉄腕」と呼ばれ、通算276勝(137敗)した稲尾和久(元西鉄、現西武)は抜群の制球力を誇った。14年の現役生活で、四死球はわずかに73。本人によると、狙ったコースと反対に投球がいく「逆球」は「生涯で5つか6つ」だったそうだ。
ある時、チームメイトに、
「どうやったら外角の低めにストレートをビシビシ投げられるのか?」
と聞かれて、こう答えたそうだ。
「どうやってもと聞かれても…。投げられるんだよ、投げようと思えば」
と答えたそうだ。天性のコントロールの良さに恵まれていたのは間違いないだろう。
 シーズン中に投げ出し、わずか2か月足らずで新球を自分のものにした大谷。「鉄腕」同様に「天才」とではないだろうか。(了)