「大リーグ見聞録」(59)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)

◎「データ」から「コミュニケーション」へ
▽選手に最も嫌われた監督
 今年のナ・リーグの最優秀監督にニューヨーク・メッツのバック・ショーオルター監督(66)が選出された(ア・リーグはクリーブランド・ガーディアンズのテリー・フランコーナ監督=64)。昨年77勝のメッツを今季は101勝させ、ポストシーズンに導いた手腕を評価された。これが4度目。それも1990年代、2000年代、2010年代、2020年代と4世代での受賞で、しかも、率いたチームが順にヤンキース、レンジャース、オリオールズ、メッツ。4度受賞はトニー・ラソーダ、ボビー・コックスと過去2人いたが、異なる4球団で4度はショーオルターが初めてだ。
「これは組織とコーチ陣、そしてかかわったすべての多くの人にとって大きな名誉だ」
 と喜びを語ったショーオルターだが、自ら「オールドスクール」と認める古いタイプの監督だ。「近年はいろいろデータが使われているが、自分の目や経験で確かめることもできる。野球は変わってきているが、昔と変わらない点もある」と受賞後、話しているように、「データ万能」とも思える今の野球には疑問を持っているようだ。
 レンジャース監督時代に取材をしたことがある。内容はほとんど忘れてしまったが、当時の担当記者に聞くと「(選手の)箸の上げ下げにも口うるさい監督」とのことだった。だからなのか「メジャーリーガーに最も嫌われている監督」と評されたこともあるという。しかし、言葉を替えて言えば、選手を「データ」ではなく、「人」として見ていたことになる。選手の性格や考え方、人間性を理解し、そこから能力を引き出そうとしたのであろう。
▽数字に振り回されてはダメ
「オールドスクール」と言えば、来季のレンジャース監督に就任する前ジャイアンツのブルース・ボーチー(67)も同様だ。ジャイアンツで3度、ワールドシリーズ制覇を果たした名将だが、こちらも「データ野球偏重」の反省からの抜擢だそうだ。地元テキサスのスポーツキャスターのハウイ・ローズはこう言っている。
「監督が数字オタクに振り回されてはダメ。それ以上のものを求められる」
 監督歴23年目で初めて世界一になったアストロズのダスティ・ベーカー監督(73)も
同タイプ。アストロズは1999年オフにチームぐるみのサイン盗みが発覚。監督、GMが解任されるなど、チームはガタガタになった。その立て直しに白羽の矢が立ったのがベイカー監督。決め手となったのは手腕だけでなく、その人柄、コミュニケーション力の高さだった。 
ワールドシリーズでもスタンドのファンが「DO IT FOR DUSTY!(ダスティのために頑張れ」と書かれたボードを掲げた。世界一達成の際にはナインやコーチからもみくちゃにされた。いかに監督が支持され、愛されているかがうかがえる光景だった。球団はベイカー監督との契約を1年延長した。
 AIで膨大なデータを集め、分析して作戦を立てる野球はこれからも変わらないだろうが、それだけでは戦えないし、勝てない。野球の主役は人だからである。オフの監督人事はそのことを示しているのではないか。(了)