第65回「プレイ・ボール」(島田 健=日本経済)
◎天才少女の野球観
▽飛び級2回
宇多田ヒカルといえば1998(平成10)年、に15歳でデビューして一躍大ヒットを飛ばした早熟の天才シンガーソングライター。最初のアルバム、「First Love」は総計766万枚を超えたそうだ。
演歌歌手、藤圭子と音楽プロデューサー、宇多田照實の娘としてニューヨークで生まれた。小さい頃から出來る子だったそうで、ファミリーバンドで唄いながらも飛び級を2回経験して、デビュー後の17歳には難関のコロンビア大学に進んだ(卒業はせず)。23年5月に昔の読書録を調べてみたら小2の時に8か月で167冊を読破したと英語で書いていたと、SNSで披露した。
▽それも風流
そんな彼女が19歳の時に発表したアルバム「Deep Liver」に加えたのがこの唄。
「生意気そうと思われる第一印象 気にしないで そう最高の防御は時に攻撃だと言うでしょう」「もう終わりの気配漂う8月末 あきらめないで 力尽くしてダメだったらそれも風流」
恋愛模様を野球に絡めて表現しているのだが、「風流」なんて19歳の言うことじゃないしょう。公式ブログで「(大リーグは)選手の名前すら(知らない)。日本の野球の方が詳しいかも!日本にいるときはテレビで野球も観るけれどアメリカでは、気軽に見る機会がなかったりするんだよね」。父親の影響もあって結構、野球は好きらしい。
▽ヤンキーズ
宇多田は19歳でカメラマン、映画監督の紀里谷和明と結婚、5年後に離婚。14年にはイタリアの一般人と結婚、一男を得るもまた離婚と私生活も飛んでいるようだが、なかばネイティブの英語の発音に関しては、凡人の筆者も納得する発言をしている。
「(ブログに)ヤンキーズと書いたら、もうなに言ってるのっ、ヤンキースでしょ」と叱られたという。名詞の複数のSについては語尾が有声音の時はズ、無声音の時はスが大原則。ニューヨークで生まれた彼女は当然ヤンキーズと聴き、自ら発音していたのだ。ところが日本の大リーグ名はドジャース、カーディナルスなど行き当たりばったり。
▽日本の将来が心配
バンド名にしてもベンチャーズは濁るのにタイガースは濁らない。和製英語ならぬ和製発音である。
ジャズ好きの筆者は以前からトランペットの帝王、マイルス・デイビスについて疑問を持っていた。どう考えてもマイルズが正しい。女優のサラ・マイルズはちゃんと濁って発音されているのに。
大リーグの球団名も現地の発音に基づいて直してほしいと考えている。
宇多田はさらに「日本語は最近、カタカナ語が多すぎる。日本の将来が心配だ」とも。その通り、彼女は常識もある天才なのだ。
検索は「宇多田ヒカル プレイ・ボール」(了)