「大リーグ見聞録」(68)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)
◎”野球の華”乱闘が戻ってくる
▽コロナ特別対策で減少
去る8月5日(現地)のガーディアンズ対ホワイトソックス戦で派手な乱闘が展開された。
6回裏、右翼線にヒットを放ったJ・ラミレス(ガ軍)が一気に二塁へ。遊撃手のT・アンダーソンが両足の間に滑り込むラミレスにタッチ。これが「乱暴なタッチ。奴には敬意がない。いつもだ」とラミレスが激怒。アンダーソンが「やるのか!」とばかりにファイティングポーズを取り、殴り合いに。両軍選手が飛び出してきて乱闘になり、結局、両監督はじめ8人に試合停止と罰金の処分が言い渡された。
乱闘は14分も続いた。これほど多くの退場者を出したのは、昨年6月26日の12人が出場停止になったエンゼルス対マリナーズ以来だ。
MLBといえば派手な乱闘が代名詞だが、しばらく鳴りを潜めていた。その一因はコロナだろう。2020年の公式戦は蔓延したコロナで開幕が延期。約4か月遅れて始まったがその際、特別な「開催要項」が発表された。その中に「Fights are strictly prohibited」(乱闘は厳しく禁じられる)の一文があった。
乱闘の主な原因は死球。ぶつけられた打者が投手に襲いかかり、両軍選手が応援に駆け付け入り乱れる。まさに「密」。コロナ下では絶対に避けるべき状況だ。その「密」を回避するため、球審は危険球をより厳しく取るようになった。それ以来、派手な乱闘はほとんど姿を消していた。
▽バットで捕手の頭をボコボコ
乱闘の歴史の中で最も激しいと言われているひとつのが、1965年8月22日のドジャース対ジャイアンツ戦。もともとナ・リーグ西海岸のライバル同士。3連戦の3戦目で、それまで両軍は挑発発言などで陰険なムード。3回裏、ジ軍エースのマリシャルが打席に立つと投球が2球続けて胸元へ。するとマリシャルは突然、捕手のローズボロの頭をバットで思い切り殴ったのだ。
両軍が激しくやり合う中、ローズボロは救急車で病院に運ばれた。頭を5針縫う重傷だった。グランド内とはいえ、マリシャルは暴行傷害で刑務所に送られてもおかしくない。
「ローズボロの投手への返球が胸元をかすった。挑発されたと思った」と話したマリシャルだったが、驚いたのは「厳罰に処す」と言っていたコミッショナーの処分。たった1750ドルの罰金と9日間の出場停止だけ。選手のやり得か。
野球はひとつ間違えば大けがにつながる、危険なスポーツでもある。だからこそチームメイトへの一線を越えたプレーにナインは飛び出す。そして総じてファンにはそれを認める、あるいは面白がる気質があるようだ。コロナも終息に近づき、MLBも平常に戻ってきた。これからは乱闘がもっと見られるようになるだろう。
残念ながら、私はメジャーの試合で生の乱闘を一度も見たことがない。(了)