「野球とともにスポーツの内と外」(52)-(佐藤 彰雄=スポーツニッポン)

◎観客とマナーについて
 以前の話です。大阪・茨木CCで開催された女子ゴルフの国内最高峰「日本女子オープン」での出来事。まだ宮里藍(現・引退)が現役で頑張っていた時期。最終日、宮里人気で1万4780人の大観衆を集めた中、優勝争いは韓国の張晶(チャン・チョン)と宮里の日韓2強対決となり、観客を沸かせる中、張の崩れない強さに軍配が上がりました。
 このときの張は初めての日本での試合でした。米ツアーでは「全英女子オープン」などで勝利している実力者。日本初参加を「友人の宮里さんが出ている試合だし…」と話し“友好”を強調していました。が、大会中、ほとんどが宮里ファンのアウエー感に違和感を覚えたのでしょう。試合中にイヤな出来事があったのかもしれません。試合後に「いいプレーのときには拍手が欲しい。バーディーを取ったときにはナイス・バーディーの声が欲しい」と勝者に冷たかった日本の観客(ギャラリー)に不満を訴えていました。
▽行き過ぎた身びいき
私はこの出来事に対し、例えばMLBで活躍するヤンキースの松井秀喜(当時)やマリナーズのイチロー(同)にスタンドの観客は惜しみのない拍手を送るではないか。不屈の闘魂、果敢なチャレンジ、快挙の達成。そういうものに対する観客の敬意、敵・味方、国を超えた称賛には胸を打つものがある。観客のそういう姿勢こそが舞台を最高に盛り上げるのではないか…といった内容で観客のマナー違反を批判する記事を書いたところ、しばらくして一通の手紙を頂きました。
 差し出し人は神奈川県鎌倉市在住のスポニチを愛読しているという高齢のご婦人でした。この方は熱心な野球ファンで便箋にびっしりとしたためられた文面は、お年を超えて(失礼)スポーツマインドに満ち満ちており、私の批判に対して「日本人の観客も捨てたものではありませんよ」との反論が書き込まれていました。
▽日本人観客も捨てたもんじゃない
 彼女は西武ライオンズのファンで球場にもしばしば出向くのだそうです。「野球ファンは常に野球同様に素晴らしいと言われるよう頑張っていますよ。明るく楽しく熱く…何よりもフェアプレー精神です」。そして続けます。「小さなことですが、自分のゴミは(ときには他人のゴミも)キャンデーの包み紙一つでもゴミ袋にキチンと入れて所定の場所に出します。何ごとも小さなことの積み重ね。それが大きな幸せを生むんです」と結んでいました。
 確かに昨今、海外における日本人観客は、試合後に客席を清掃するなど、そのマナーの良さが称賛されています。“身びいき”はどこの国にもあり、それは仕方のないことですが、スポーツの場にあっては、ともに健闘を称え合う観客のマナーも忘れないでほしいですね。スポーツマインドを心に宿す多くのフェアで謙虚な日本人観客は、それを照れずに主張し表現すべきなのかもしれません。一部の心ない人たちの行為によって打ち消されてしまわないためにも…です。(了)