「大リーグ見聞録」(69)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)

◎女性スキャンダルを巡る日米球界の違い
▽強い米「選手の会」発言力
今年2023年、日米球界で女性スキャンダルが起きた。プロ野球では西武の山川穂高が5月、都内のホテルで女性に性的暴力を加えた疑いで書類送検。MLBではレイズのワンダー・フランコが8月、14歳の少女と交際。未成年淫行の口止め料20万ドルとベンツを要求されていたことが発覚した。9月にはドジャースのフリオ・ウリアスが妻に対する暴行で逮捕された。
9月になって山川は不起訴になったが、球団は改めて無期限出場停止処分を発表した。フランコ、ウリアスも休職処分(出場停止)を受けた。3つのスキャンダルを一緒にはできないが、それでも日米の球団や機構、選手会など対応にはかなりの違いがあることがわかる。
 まず問題を起こした選手の処分の仕方が違う。
西武では球団が決めたが、大リーグではMLBが処分を決める。その際は大リーグ選手会の合意を得る。今回のフランコ、ウリアスの件でもMLBと大リーグ選手会が話し合いの上の処分だ。ちなみにウリアスは2019年にもDV容疑で逮捕された。後に不起訴になったが、MLBは20試合の出場停止処分をウリアスに課している。
2004年に売春婦にフェラチオさせていたロッキーズのネイグルが現行犯逮捕。球団は解雇しようとしたが、選手会が反対。21億円の年俸を17億円に下げただけだった。今回、山川の件では日本の選手会もNPBも処分に関与していない。
▽「ファンの女には手を出すな」
山川問題で西武の飯田光男球団本部長が役員報酬を一部、自主返納したが、これもMLBでは聞いたことがない。ワンダーも、ウリアスも個人の問題。球団に責任はない。
 プロ野球の選手はしばしば「青少年のお手本に」などと言われる。MLB選手に対してはこうした表現は耳にしたことがない。ラスベガスのストリッパーを遠征先々のホテルに呼び出したり、ケガで入院していた病院のナース全員とやった、と豪語するスラッガーがいた。いずれも妻帯者で報道もされたが、大騒ぎにはならなかった。球団も我関せず。あくまでプライベートな問題ということで、また珍しくもないからだろう。これでは「お手本」にはできない。
MLBは薬物やDV,暴行、未成年に対する虐待には厳しいが、女性スキャンダルにはそれほどでもないようだ。
ちなみにMLBでは球団がルーキーリーグ、1Aのマイナーで、アメリカ出身以外の外国人選手(日本人も含む)に球団が、「ファンの女には手を出すな。トラブルになったら必ず訴えられるから」と厳しく指導する。だからマイナー選手の女性スキャンダルは滅多にないそうだ。
だが、何億円もの年俸をもらい、黙っていても女性が寄ってくる大リーガーになれば、そんな話はとっくに忘れてしまっているだろう。ちなみにフランコはドミニカ出身である。(了)