◎古関裕而と野球(菅谷 齊=共同通信)
2023年9月14日、甲子園。この日は球史に残る一戦だと思う。
阪神が18年ぶりにセ・リーグ優勝を決めた夜である。地元での勝利、相手は巨人。この両チームはプロ野球を草創期から支えてきた東西の柱で、対戦を「伝統の一戦」と呼ぶ。阪神にとってこれ以上ない“アレ”(阪神岡田監督の優勝の意)の達成だったことだろう。
なぜ球史に残る試合だったのか。
両球団の応援歌の通称がキーワードである。阪神の「六甲おろし」に巨人の「闘魂こめて」は、いずれも古関裕而が作曲したもので、しかもその古関は今年初め、野球殿堂入りしたばかりだった。
さらにいえば、甲子園を舞台にした高校野球の「栄冠は君に輝く」も、古関の作曲として名高い。
これほどの材料はめったに重なるものではない。
「六甲おろし」はプロ野球がスタートした1936年(昭和11年)に作られた。「闘魂こめて」は巨人の3代目の球団歌で63年(昭和38年)に出来た。
古関は福島の老舗呉服屋の倅で、銀行務めを経てクラシックからポピュラー作曲家に転じた。楽器を使わず頭の中で曲を作る“異能の天才”だった。あらゆるジャンルの作曲を手掛けたが、野球の曲がかなりある。プロ野球では中日や東映などもあり、大学や高校の応援歌、社会人の都市対抗もそうである。
かつて電話だったが、古関を取材したことがあった。丁寧に作曲の由来を教えてくれた思い出がある。
何度も国民栄誉賞の話が持ち上がった。その度に遠慮したのは作曲した軍歌にあった。若い命を戦場に追い込んだという思いが解けなかったからだという。それでも地元では野球の殿堂入りを喜び、さまざまな催しがあるそうである。(了)