「記録の交差点」(5)-(山田 收=報知)

第5回 坂本勇人(巨人)⑤
 2023年のシーズンが終わった。坂本にとっては、転機となる1年だったかもしれない。前回書いたように、入団以来、遊撃手一本で出場していた巨人の顔が、ルーキーの門脇誠に定位置を譲り渡し、三塁へコンバートされた。これが選手生命の延長、記録への挑戦につながると思えるのだ。
 17年目が終了して通算2321安打。史上最年少で2000安打をマークした榎本喜八を抜き、歴代15位につけている。上位14人のうち、右打者は18本差の山本浩二(13位)、そして落合博満(12位)、土井正博(10位)、長嶋茂雄(9位)衣笠祥雄(5位)、野村克也(2位)の6人である。今回は、右打者最多安打という、より近い目標達成の可能性を探ってみる。ターゲットの記録保持者・野村は、2901安打を残している。
 野村の偉大さは、捕手でありながら実働26年、45歳までプレーしたことだろう。出場した3017試合中、捕手として2921試合にマスクを被っている。積み上げた数字も素晴らしい。1961年から8年連続本塁打王であり、63年には52本塁打で当時の日本記録を更新。62年からは4年連続40本塁打、65年にはパ・リーグ初の三冠王に輝いた。通算1988打点は今でもパ記録。昭和を代表するスラッガーだった。そのレジェンドとはタイプは異なるが、ともに守りの要としてチームを牽引する存在が坂本といえる。
 実働17年終了時点での両者の記録を眺めてみると、野村2111試合(坂本2101)、7514打数(同7983)、2134安打(2321)、314二塁打(445)、516本塁打(288)、1491打点(1004)、1048四死球(903)、1156三振(1399)、打率.284(.291)といった具合である。
 坂本は2年目、野村は3年目から実質的にレギュラーとなっているが、出場は10試合しか変わらない。安打、二塁打、打率は坂本が上回り、他は野村がリードしている。蛇足ながら、1試合3安打以上をマークする猛打賞は23年、野村の180を坂本が追い抜き183となった。注目している通算安打数は、580本差。坂本の直近5年間の成績をみると、2098打数610安打、打率.291。このペースでいくならば、あと5年で追いつく計算になる。その時、2028年のシーズンには39歳(誕生日は12月)となっている。
 さらに高みを目指し、右打者初の3000安打となると40歳の大台に乗る。メジャーの長い歴史の中でも33人しかいない大記録。もちろん日本球界では張本勲しかいない。内野を守りながら40歳まで現役でいられるには、タフでストロングな肉体と精神が必要なのかもしれない。ちなみに31歳7か月で2000安打を記録した榎本喜八は、36歳で現役を引退している。坂本は現役プレーヤーとして、レジェンドたちの大記録を超えていける数少ない存在だ。夢と希望を与える日々を、新たなシーズンでも提供してほしいものである。(続)
=記録は23年シーズン終了時点=