「たそがれ野球ノート」(6)-(小林 秀一=共同通信)
◎愛された記録の鉄人
2021年1月に亡くなった元パ・リーグ記録部長の千葉功さんを偲ぶ会が、先日都内で開かれ、故人とお付き合いのあった人たちが集った。プロ野球記録一筋の人生で、野球界や担当マスコミでは知らぬ人はいない有名人。部長を20年間勤めた一方で、雑誌「週刊ベースボール」にコラム「記録の手帳」を書き続けた。データから野球を分析する人気連載はギネス級の2897回を積み重ねた。
公式記録員席と共同通信の記者席が隣接していることが多く、筆者にとって駆け出し時代から千葉さんは野球記録の師匠だった。記録の手ほどきを受けながら数えきれないほど記事のヒントもいただいた。
公式記録に精通した上で、データを駆使してプレーや選手個人をさまざまな角度から分析。野球の面白さを伝え続けた。MLBへの造詣も深く、さらに長嶋茂雄の研究家でもあった。ご自宅の書斎にあふれる長嶋関連の書物、スクラップには驚かされた。
一方、多くの人が知る千葉さんの特徴はすぐに頭に血が上ること。いったん不愉快なことや、納得のいかないことが起こると、みるみる顔が紅潮してきて、しばらくは正常な会話ができないほどの興奮状態に陥る。
例えば、かつては安打か失策を判断する公式記録員にグラウンドから抗議行動がよくあった。スコアボードに「E」のランプが点くと、ベンチからニュッと顔が現れ、ネット裏上部の記録席をにらみつけるのだ。安打を1本損した選手に代わってコーチの静かな抗議だが、こんなことが起きると、「なにいっ~」と千葉さんの変化が始まる。その後どうなるか分かっているので、周囲には正直言って、怖いもの見たさのような期待感が生まれる。(ごめんなさい。千葉さん) そんな子供のような純朴さがあったからこそ、皆から親しまれ、愛される存在になったのだろう。
パーティーには小学校の同級生だった秀子夫人や娘さん夫婦、お孫さんもお呼びして温かな空気が流れる中、参会者はあらためて千葉さんの積み重ねてきた歴史に思いをはせた。
プロ野球の記録を守っていくことは伝統を維持していくことにつながる。NPBには記録の積み重ねを大切にする姿勢をもっと強く示してほしいと、日ごろから思っている。それだけに、今回企画したベースボールマガジン社の池田哲雄社長にはこの場からも感謝の気持ちを伝えたい。
(了)