「菊とペン」(46)-(菊地 順一=デイリースポーツ)

◎あの「バックスクリーン3連発」の真実
2023年のプロ野球の最も大きなトピックと言えば、これで決定だ。
阪神タイガース38年ぶりの日本一。
なんせ1985年にオギャーと生まれた赤ん坊が不惑を目前にしている(当たり前だが)。なんとも言えない歳月である。
その85年前の日本一を語る時、必ず出てくるのが4月17日、甲子園の巨人戦で起きた出来事、熱烈な阪神ファンにとっては自分の誕生日よりも大事な日付ではないか。
伝説のバックスクリーン3連発だ。当時、私は巨人担当だった。阪神が2点を追った7回裏2死一、二塁、ちょうど早版を書き終えてグラウンドに目をやった。
打席には3番ランディ・バース、槙原寛己のストレートを捉えた。打球は一直線にバックスクリーンに伸びてそのままフェンスを越えた。3ランだ。
なんだ、逆転かよ。書き直した方がいいかなと思いつつ、またグラウンドに目をやると再び大歓声だ。4番・掛布雅之の打球はまた中堅に伸びた。そしてバックスクリーンわずか左の観客席でポーンと跳ねた。
これはバックスクリーンじゃないなと思いながら5番・岡田彰布の打席を見やった。3たびの大歓声、打球はバックスクリーンに消えて行った。
この間、わずか6球。全面的に書き直しだな。それにしても2発はバックスクリーン弾だが掛布の一発は違う。どうしたものか。
ところがこの回が終わると、「この回バックスクリーンへホームランを打ちましたバース、掛布、岡田選手には…」という場内アナウンスが流れた。正式に〝認定〟されたのだ。当時、バックスクリーンへの1発には10万円相当の賞品が贈られることになっていた。ファンに知らせる必要があった。
かくして「バックスクリーン3連発」は阪神の歴史に刻まれることになった。だれもが見ていたが、新聞、テレビなどマスコミは大喜びで報じた。もちろんファンに異論はない。
それでいいと思う。球団、マスコミ、そしてファンが認定したのである。バックスクリーンへ消えた。バースは言った。「こんなの見たことないぜ。とてもエキサイティングさ」-伝説とはこうして生まれるのだろう。
この試合、ひょっとしたら巨人にも伝説が生まれていたかもしれない。9回表無死、3番ウォーレン・クロマティがこの試合、2本目の本塁打を右翼席に運ぶと、4番・原辰徳が中堅に叩き込んだ。2者連続本塁打だ。
阪神は慌てた。福間納から急きょ、中西清起をマウンドに送った。そして5番・中畑清は1-1から左翼方向へ大飛球、あわやと思われたが、甲子園の大歓声とともにファウルになった。最後は左直に倒れて巨人の反撃もここまでだった。
6対5、阪神は辛くも1点差で逃げ切った。中畑の打球が本塁打になっていたら、3者連続本塁打で同点である。さらに逆転する…。これはこれで巨人の伝説になっていただろう。
阪神のバックスクリーン3連発の話題が出ると、私は必ず巨人の「幻の3連発」を夢想する。(了)