「大リーグ見聞録」(71)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)

◎今季の4つのルール改正を検証する
▽期待通りと意外な結果
 テキサス・レンジャースの世界一で幕を閉じた今年の大リーグ。今季は4つのルール改正が実施されたが、それらを検証してみたい。
 4つとは…
① 投手の投球間隔を走者なしは15秒、走者ありは20秒以内に制限するピッチロック
② 投手の牽制を3回までに制限し、それで走者をアウトにしないとボークになる
③ 塁間に内野手を3人置く守備シフトの禁止
④ 一、二、三塁ベースの7・6センチ拡大だ。
大きな目的は試合のスピード化だったが、試合時間は9イニングで平均2時間39分。前年比で24分も短縮された。ピッチロックで投手の投球間隔が制限された影響が大きい。牽制の制限は試合のスピードアップと盗塁の増加につながっている。
今季の盗塁の企図数は昨年より1072増えて4369。さらに成功率も80・2%。これはア、ナ両リーグを通じて史上最高の成功率だ。牽制制限に加えて、ベース拡大で塁間が11・6センチ短くなったためと考えられる。
アトランタ・ブレーブスのR・アクーニャ・ジュニアが史上初の「40本塁打&70盗塁」の記録を達成したのも、その恩恵があればこそだろう。
意外だったのはシフト禁止令の効果がほとんどなかったことだ。塁間を抜く単打を増やし、塁上を賑わせて、試合をよりエキサイティングにするのがMLBの狙いだった。それがシングルヒットの伸びは前年比わずか0・6%。逆に本塁打は13・1%増になったのだから、何とも皮肉である。打者が守備陣形を気にせず、思い切りバットを振り回せたからだろうか。
▽選手の評価にも影響
 今年、大リーグの観客動員数は6年ぶりに7000万人を超えた。前年比9・5%増だ。ネットの視聴者も増え、ルール改正はとりあえず成功を収めたと言える。MLBは来季、走者ありの投手の投球間隔を20秒から18秒に短縮することを検討している。さらなる試合の迅速化を図る考えだ。
 こうした改革を受け、米マスコミでは選手の評価にも影響が出てくるとの議論が活発になっている。
中でも捕手だ。捕手の評価のひとつは強肩、即ち、盗塁阻止率だが、今季はそれが全体で昨季の20・6%から19・8%にダウンした。これには牽制でおびき出されて次の塁を狙ってアウトになったケースも含まれるので、実際の盗塁阻止率はもっと低くなる(15・6%の数字もある)。
盗塁企図数が増加しただけでなく、成功数も昨季に比べ40%もアップしている。強肩と言われる捕手でも走者を刺すのは容易ではない。強肩がこれまでのように武器にならなくなっている。盗塁阻止率の低下を捕手のマイナス評価にしないチームも出てくるほどだ。
 今年の結果を見て、各球団がどんな対策を立てるのか。来シーズンも引き続き注視したい。(了)