第71回「ナイター」(島田 健=日本経済)

◎泣ける唄
▽親子で観戦
ポール・サイモンの「ナイトゲーム」は少し難解な唄だったが、和製英語である「ナイター」
は極めてわかりやすい。「あれから一年過ぎて 今夜は一人ナイターに来ています 長くはないと告げられて それでも二人 何度か来られたね 昔みたい」。これだけだと恋人関係もあり得るが、「夏の夜風は 大事な人を 遠く運んで行きます もっともっと 話したかった どうですか この私 いい娘でしたか?」。仲の良い父親を亡くした娘の独白である。
▽二人でロック
ドゥ・アズ・インフィニティ(DoAsと略す)は他のメンバーもいたが、基本的に伴都美子と大渡亮の二人で構成される。79(昭和54)年生まれの伴が主にソロボーカル。71年生まれの大渡がギター、ボーカルその他を担当している。09年に発表されたこの唄はスタッフの一人の実話からできたそうだ。作詞家のKano Inoueに依頼して唄が出来上がった。ただその際、元は「息子」とあったのを、女性の伴が唄うことから「娘」に換えてもらった。唄的には息子より娘の方がグッと盛り上がるのはいうまでもない。
▽いつか涙で
伴はかなりの美形で声もいいが、デビューしたのは、音楽事務所のエイベックスにスカウトされたのがきっかけ。エイベックスは才能ある若手のバンドのボーカルを探していたのだ。父親がスウェーデン人の伴は、この曲ができた時は「まだ健在な両親が聞いたらどう思うか」と思ったそうだが、19年には親を亡くした人達が周りに増えたこともあり「いつかこの唄を唄う時に、私は涙で唄えなくなるかもしれない」と語っている。
▽泣けるビデオ
唄のラストは「暫くは 右隣 空席にしています」。この唄のミュージック・ビデオは横浜球場のチープな席がクローズアップされるカットで始まる。歌詞に沿って流れる場面は、父親の病院や、ビールを飲むところや、ベイスターズの帽子を被って笑う姿とか、空になった病院のベッドとかベタに泣けるシーンが満載だが、娘の姿は映らない。しかし、父親役の國村隼がいい。悪役でも頑固親父でもなく、さりげない表情が心を揺さぶる。自分が同じような境遇でなくても胸がいっぱいになりそうだ。
検索は「Do As Infinity ナイター」(了)