「野球とともにスポーツの内と外」(55)-(佐藤 彰雄=スポーツニッポン)

◎「流出」と「交流」について
 これほどまでにラブコールを送られては躊躇(ちゅうちょ)することもないでしょう。NPBオリックスからポスティングシステムによりMLB移籍を目指す山本由伸投手(25)です。
 【ポスティングシステム】=海外FA権の取得前に大リーグに移籍する制度。現在は以前のように入札制ではなく、獲得を希望する全球団と交渉出来る。
▽MLB15球団の争奪戦
 何しろ山本は今季、最多勝(16勝6敗)、最優秀防御率(1・21)、沢村賞などに輝き、チ-ムのリーグ3連覇に大きく貢献、春先のWBCでも活躍しており、チームのみならずNPB屈指のエースです。米球団の山本争奪戦は、全30球団の半数15球団にも及ぶと伝えられ、その去就は、MLBエンゼルスからFAの大谷翔平投手(29)と並ぶ注目を集めています。
 さて…この騒ぎを「さすが」と喜ぶか。あるいは十数年前、日本球界がMLBに持っていた“ひけめ”がなくなった今、山本ほどのタレント(talent=才能)を米国に持っていかれる「流出」を悔しがるか。この「交流か流出か」の問題は、これからNPBが本気で立ち向かわなければならないテーマになるのでは? と思います。
▽エース不在がもたらす影響は?
 例えば…女子プロゴルファーの岡本綾子は1983年のシーズンから「米国常駐」という形で米ツアーを主戦場にしています。この年代、岡本の決断は難航を極めました。エース不在では観客動員に響く。協会関係者、トーナメントを支えるスポンサーともども“反対”の旗を揚げ、神経をとがらせたものでした。
やがて岡本は1987年、外国人初となる米ツアーの賞金女王に輝きます。岡本と競り合ったライバルたちはこのとき、騎馬をつくって岡本を乗せ、この日本人を最大級に祝福します。批判された「流出」が日米の懸け橋となる「交流」に変わった瞬間。この後、宮里藍らが問題なく渡米できるようになったことは周知のことです。
 山本のMLB移籍は、日本の熱烈なファンにとっては歯ぎしりしたくなるような「流出」でしょう。山本は先ごろ行われた「ファンフェスタ」(11月26日=京セラドーム)でファンに向けて「本当に大事なことは何かを求めていきたい」と話しました。「流出」がかけ
がえのない「交流」に変わるよう、成功を祈りたいですね。(了)