「大リーグ見聞録」(72)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)

◎大谷翔平と落合博満
▽「オレ流」に星野監督のいら立ち
「落合には三冠王を取る前提で年俸を払ってるんだ!」
 エンゼルスからフリーエージェントして、ドジャース入りした大谷翔平の年俸を聞いて、星野仙一監督(当時中日)の言葉を思い出した。
 1986年のシーズンオフ、中日監督に就任した星野仙一はロッテとのトレードで落合博満を獲得した。交換要員はストッパー牛島和彦ら4人。落合はロッテ時代に3度、三冠王に輝いていた。移籍したシーズンの落合の年俸は1億6500万円。当時、球界一の高給取りだった。落合は7年間、中日に在籍したがチームは優勝できなかった。星野監督の捨て台詞は落合へのいら立ちからだったろう。コーチやナインからも「チームの勝利より自分の数字を優先している」との声もあった。
そこで2023年12月、ドジャースと10年7億ドル(約1015億円)の契約をした大谷翔平である。MLB史上の最高の金額だ。
▽一変する大谷をめぐる環境
さわやかな笑顔と態度に隠されているが、実は大谷も落合に劣らぬ「ショウヘイ流」だ。投打の二刀流はDHや他の先発投手にしわ寄せがくる。DH選手の仕事を奪い、先発投手のローテーションに狂いが生じさせる。ところが大谷はそうしたことには無頓着というか、気にかけない。それは日ハム時代からだそうだ。
 エンゼルス時代、ネビン監督の降板や休養指令を拒否することも再三。とにかく試合に出たがる。日本から球界OBが取材に行っても、自分の都合を優先。会わないこともあると聞く。二刀流での活躍もあって、自己主張を通してきたし、通ってもきた。
 ドジャースでは環境がガラリと変わる。ロバーツ監督は選手とのコミュニケーションが取るのがうまい、と言われる。その半面、瞬間湯沸かし器とも言われ、マウンド上でふがいない投球の投手からボールを奪い取る。どんな好投をしていても、一定の球数を投げたら降板させる。決して温厚だけの監督ではない。ファンやマスコミも高給取りを見る目は厳しい。
 落合は監督や周囲からいろいろ言われても、89年に打点王、90年に本塁打王と打点王、91年には本塁打王になった。優勝はできなくても「オレ流」を通して、年俸も2億2000万円、3億円とアップさせた。果たして大谷はどうか。
洋の東西を問わず、一流選手は我が強く、セルフィッシュな面がある。大谷の新天地での活躍は「ショウヘイ流」を貫くか、貫けるかにかかっているのではないか。(了)