「野球とともにスポーツの内と外」(56)-(佐藤 彰雄=スポーツニッポン)

◎「禊(みそぎ)」について
 「禊」という言葉があります。辞書には「身に罪、または穢(けが)れのあるときや重大な神事などに従う前に川や海で身を洗い清めること」(広辞苑)とありました。つまり「自分の心身を真摯に浄(きよ)める」ということですね。
 人が犯す過ちについては、それぞれにさまざまな“事情”や“言い訳”があることでしょうが、百歩譲って“仕方なかった”で済ますにしても、過ちに対する当人の「反省と禊」がなければ、周りが許すことはないでしょう。
▽屈指のスラッガーが犯した罪
 さて…山川穂高内野手(32)の場合はどうでしょうか。過去3度の本塁打王に輝くなどNPB屈指のスラッガーが犯してしまった不祥事を振り返ってみます。今年(2023年)5月11日に文春オンラインが、知人女性への性的暴行で被害届が出ている、と報じて山川の不祥事が明るみに出ました。捜査を進めた警視庁麻布署が強制性交容疑で書類送検したものの同年8月、東京地検が嫌疑不十分により不起訴処分にしたという出来事です。
 山川が所属する西武球団は、書類送検されたことを重く見て同年9月、同選手に公式全戦無期限出場停止の処分を科したことを発表しました。これにより事実上、活動の場をなくした山川は、その後フリーエージェント(FA)権を行使、ソフトバンクが手を差しのべて同年12月、同球団への移籍が決まりました。
 ソフトバンクへの入団発表会見に際して山川はまず、不祥事への謝罪の言葉を発しています。取材に当たったスポニチ本紙の担当記者は、山川の「多くの方々の期待を裏切って申し訳ないと思っています。戒めはもちろん継続します」というコメントを伝えました。
▽本当の謝罪の道はいばらの道
 謝り方には概して「3大要素」があると言われます。①お詫びの表現②不祥事の原因を具体的に説明すること③再発防止の方策を述べること-の3点ですね。どの謝罪でもだいたい最も大事な③が明らかにされないというのが一般的です。それはそうでしょうね。山川の不祥事にしても③に対する説明能力があるなら起きてはいないことでしょう。
 西武に残って禊の日々を続ける方策もあったことでしょう。が、新天地で再出発することを選択した山川に求められるものは、居場所がどこになろうと、ただひたら「禊の戦い」を続けることでしょうね。その中でどれだけファンの信頼を取り戻せることが出来るかどうか…言葉に出した戒めの継続、言葉では言いつくせない本当の謝罪の道が“いばらの道”であることに変わりはありません。(了)