◎黒人リーグと日本のプロ野球(菅谷 齊=共同通信)

2024年の球界は大リーグ依存が最高潮に達する予感がする。大谷翔平と山本由伸がドジャースでプレーすることになり、その話題で日本のメディアは連日取り上げることは間違いなく、テレビは深夜、早朝から「大谷のホームラン」「山本の三振奪取」と派手に報じるのが目に見えている。
 日本人大リーガーが活躍するのはいいことである。ただ、多くの日本のファンは画面を通じて、活字を読んで彼らを見る。実物を見るには米国まで飛んで行かなくてはならない。大谷らが日本でプレーしていたらグラウンドで直接見る機会ははるかに多い。
 野茂英雄が太平洋を渡って大リーグへの扉を開いたのを機に、毎年のように日本選手が続いた。それも日本球界を代表する選手が、である。OBたちが「このまま続いたら日本のプロ野球が干上がってしまう」と嘆いたもので、いまでもそういう声を聞く。しかし、大谷ブームで表立ってそう発言することがはばかれている。それほど大谷の存在は大きい。
 実際は、日本の各球団はそのあおりを受けている。顕著な例は、外国人選手を片っ端から獲得して戦力を整えていることで、その選手たちは試合に出してみなければ分からないレベルが多い。かつては実力のある名の知れた大リーグ経験選手がいたものだが、近ごろは早ければ1年で追い返してしまう。
 そんな今の日本球界を見ると、黒人リーグの行く末を思い出してしまう。ジャッキー・ロビンソンがドジャースで近代野球の黒人初の大リーガーとしてプレーしたのが1947年。それをきっかけに各球団が黒人リーグから優秀選手を次々と引っ張った。実力選手が毎年のようにスカウトされたことによって黒人リーグは空洞化したばかりか、とうとうリーグ消滅の憂き目に遭った。ロビンソンが去ってから10年ほどの出来事だった。
 大リーグがしたたかだったのは若くて将来性のある選手を片っ端から獲得したことである。ウィリー・メーズはその代表で、最後のスカウト選手はハンク・アーロンだった。黒いルースの異名を持ったジョシュ・ギブソンら大物はほとんど無視した。
 日本のプロ野球界は大リーグの草刈り場になっている状況にある。プロ選手だから高額契約が勝ち取れるところへ行くのは理解できる。けれどもスター選手が抜けた後は…と思うのである。完全試合を達成したロッテの佐々木朗希がもう大リーグ行きを望んでいるそうで、あの快速球が間もなく目の前で見ることができなくなるとなったら、期待と寂しさが入り混じってしまう。
 大リーグの歴史は選手狩猟によって繁栄を維持している。今後の大リーグは日本のアマチュア選手を平然と取りに来るだろう。日本のプロ野球に目ぼしい選手が減って“用なし”になっていくからである。そしてドラフト指名の新人の多くが大リーグ移籍の年数などの権利を入団の条件に入れてくる日が間違いなくやってくる。(了)