「しゃべって、出会って」(3)-(近藤 雄介=フジテレビ)

◎どちらにも“肩入れなし!”なのに・・・
 30年以上前のお話です。地上波だけが?テレビ放送の電波だった時代です。
 スポーツアナウンサーにとっての目標は巨人戦の中継を担当することでした。当時、視聴率は高く、簡単に25%を超えました。パ・リーグのデーゲーム中継からスタートして経験を積み、それなりの評価を得てやっとたどり着ける“晴れ舞台”でした。
 数えきれないほどG戦をしゃべりました。でも、数える気にもならないほどの失敗をしました。言い間違い、見間違い、勘違い、お思い込み…。書き切れません。
 当時の地上波放送(全国ネット)ではアナウンサーも解説者も「中立」の立場でしゃべりました。局の事情などで多少の思い入れが出てしまうことはありましたが、“どちらにも寄らない”が基本でした。他局もほぼ同様でした。
 なのに、中継のたびに視聴者からは「巨人びいきがひどい」「ヤクルトに肩入れし過ぎ」など、真逆の声が電話でドカンと寄せられました。ヤクルト―巨人戦の同じ放送を見ているのに、毎回両サイドからの強烈な声が局に届きました。
 ファンの“我がチームへの熱”が「中立」のラインを変えているのです。巨人ファンにとっては“かなり巨人よりの中継”が「中立」と感じる。他チームのファンも“ひいきチームを応援してくれる放送”が「中立」に聞こえるのです。中継する側が頑張って中立を意識してもどうにもなりませんでした。それぞれのファンが勝手に中立ラインを書き換えているのですから…。
 ファンは実にわがままです。でも“好き”“ひいき”ってそういうものだと思います。その熱が当時も今もプロ野球を支えています。
 当時、一枚のはがきが局に届きました。小学生からでした。「ちびっ子っていわれるとムカつく」とありました。あの頃は「夏休みに入り、ちびっ子ファンが…」などと普通に使えました。『ちびっ子のど自慢』『ちびっ子相撲』などなど。これはひいきとは違う話ですが・・・。
 さまざまプロ野球ファンが、それぞれにテレビ中継を見てくれていました。それ以来、“ちびっ子”は封印しました。(続)