「たそがれ野球ノート」(11)-(小林 秀一=共同通信)
◎お立ち台のトレーニング
その昔、ヤクルトの野村克也監督は選手に注文を付けた。ヒーローインタビューのお立ち台ではきちんと自分の言葉で話し、「頑張ります」の常とう句は禁止したのだ。派手なパフォースマンスは願い下げだが、しっかりとした発言で自分を表現することはプロ選手としての資格の一つだろう、と野村さんの教えにうなずいたものだ。
お立ち台でマイクを向けられ緊張の場ではあるが、そこでしっかりとした発言を聞くと、「おっ、こいつなかなか面白そう」と思ったりする。ヒーローになったシーンの振り返りでも、決まり文句しか言えない選手と、その時の駆け引きや心情を話せる選手とでは大きく印象が違う。これから記事を書こうとしている記者だったから注目していたわけではなく、スタンドやテレビの前のファンにとって、選手の気の利いた言葉は心に響くに決まっている。
さて、近頃のお立ち台はどうだろう。相変わらず、「頑張ります」「応援よろしくお願いします」なんてセリフが横行している。それはそれでいいのだが、もう少しまともなことを言えよ、と注文を付けたくもなる。もうひとつ「最高で~す」と大声で叫ばれると、レベルに低さを痛感させられる。
ただ、表現の苦手な人の存在は否定しない。「最高です」の権化、巨人・阿部慎之助監督の応える姿は決して嫌いでない。前任監督が声を張り上げながら、大げさに中身ないことを話すインタビューにはうんざりしていただけに、ぼつぼつしゃべる阿部監督の愚直さには好感が持ててしまう。全くの私見による言い分で申し訳ない。
ところで、ソフトバンクホークスの二軍、三軍では試合で勝利すると、試合終了後にヒーローがナインの前でスピーチをする儀式があるという。いずれ一軍に上がった時のお立ち台を意識した訓練だ。若いうちにプロとしての自覚を植え付けるとともに、社会人としての教育の場にもなっていると思う。(了)