「たそがれ野球ノート」(12)-(小林 秀一=共同通信)

◎ありがとう、馬立さん
野球記者として取材経験を重ね、その後NPB(コミッショナー事務局)に移り法規部長の要職などに身を置いて、プロ野球界の内部を知り尽くした人。その一方で持ち前の英語力を生かしてMLBにも詳しく、来日外国人選手と交流を重ねてきた一面もあった。そう、馬立勝さんのこと。その馬立さんが3月に亡くなった。
 報知新聞の記者時代からお付き合いをいただいた。ニュースを追いかけて突っ込んでいくような記者ではなく、馬立さんはいつもクールで徒党を組むことを嫌う人だった。一歩下がった位置から全体を見渡し、独特な視点で書く記事にはたびたび感心させられたことがあった。NPBに移られてからはMLBとのパイプ役を務めながら、選手契約、ドラフトなどの運用に手腕を発揮されていた。
その一方、豊富な知識をもとに野球コラムの執筆も続け、さらにパンチョこと伊東一雄さん(故人。元パ・リーグ広報部長)との共著「野球は言葉のスポーツ アメリカ人と野球」は、まだなじみの無かったMLBの歴史やエピソードなどを日本の野球ファンに紹介した。
馬立さんの死去が公表されたのは5月中旬。悲報を少し早く知った筆者が馬立さんと交流のあった何人かにメールで連絡をすると、偲ぶ声がいくつも返信されてきた。「かっこいい先輩でした」「万年筆で優雅に書いている姿が目に浮かびます」「コロナ前の飲み会が最後でした」「物知りでいろいろ教えていただいた」などなど。あらためて多くの人から慕われていたのだとつくづく思った。
そして一人からのメールには馬立さんの連載コラムの最終回(2022年)の切り抜きが貼られていた。テーマは、判定にAI(人工知能)技術を取り入れるべきかどうか。馬立さんは「違和感は募るが、サッカーW杯の審判を見ていると、決して機器の奴隷とは思わない。審判員諸氏が胸を張って楽し気にコールしているではないか」と指摘し、野球も新時代を見通すべきだと結んでいた。
お付き合い、ありがとうございました。どうぞ安らかに。(了)