「プロ野球OB記者座談会」 第3回

◎プロ野球最強の打者は誰か?(その1)

[出席者] 大場宇平(報知)、島田健(日本経済)、菅谷齊(共同)、高田実彦(東京中日スポーツ)、田中勉(時事通信)、露久保孝一(産経)、寺尾皖次(テレビ東京)、真々田邦博(NHK) 司会・荻野通久(日刊ゲンダイ)
(敬称略 選手名の所属チームは当時の球団名とし、複数の球団に所属した場合は最も活躍した球団名とする。記録は2017年末現在)

司会・荻野 「長いプロ野球の歴史を振り返ると数々の強打者、大打者の名前が浮かびます。皆さんはそうした選手を間近に見て、取材をしてきたわけですが、『最強打者』の定義、条件からうかがいましょうか。

▽「最強打者の条件とは」

菅谷「ここ一番で打つ勝負強さ、獲得したタイトルの数を挙げたいですね」
高田「賛成です。そして記憶に残り、思い出に残る選手」
真々田「やはり積み重ねが大事です」
大場「相手チーム、相手ファンから憎たらしいと思われる選手」
露久保「実績、残した数字ですね」
島田「打つだけではダメで、走る、守ると三拍子揃った選手こそ、最強の名にふさわしいと思います。打ったあと、一塁にドタドタと走るようでは最強とは言えません(笑い)」
寺尾「いい場面で打ち、しかも格好がいいというのも条件に入ると思います」

▽「ファウルチップしたボールが焦げた」怪童中西

司会「それでは具体的な名前を挙げていただきましょう」
寺尾「大下弘(西鉄=現西武)ですね。ポンちゃんというのがニックネームでしたが、スタンドにポンポンとホームランを放り込んだからです。静岡の草薙球場の右中間に場外ホームランを打った。当時、そこには池があり、そこまで飛ばした。見事な一発でした。天才バッターだと思います」
菅谷「天才と言えば張本勲が『右打者では別当さん(薫、毎日=現ロッテ)、左打者では王〈貞治=巨人〉さんがナンバー1』と話してます」
大場「西鉄でチームメイトだった中西太もすごかった。打球が鋭くて、私も三塁ライナーだと思った打球がグングンと伸びて、アッと言う間にレフトスタンドに吸い込まれたのを見たことがあります」
寺尾「中西がファウルチップしたら、ボールの焦げた臭いがしたという話がありますね。手首を使い過ぎて腱鞘炎になって引退したのは残念でしたが・・」
司会「それだけスイングが速くてボールが摩擦して焦げたと・・」
菅谷「1956(昭和28年)55、56、58年と4度も二冠を取りながら、あと一歩で三冠王を逃しています。58年の巨人との日本シリーズで西鉄が3連敗から4連勝したときも、最終第7戦で初回に3ランを打ちました」
大場「現役引退後、しばらくしてヤクルトの打撃コーチを務めましたが、スイングの鋭さは若松(勉)もかなわなかった。若松も2度首位打者を取ったバッターでしたが・・」

▽「王の通算本塁打は1000本!?」

島田「張本の名前が出ましたが通算で3000本安打、500本塁打、300盗塁を記録しています。晩年は守備、足は衰えましたが、この数字を残しているのはプロ野球では張本だけ。まさに3拍子揃った選手でした。この数字を持つのは、大リーグでもサンフランシスコ・ジャイアンツで活躍したウイリー・メイズくらいではないですか」
司会「戦後初の三冠王になったのが野村克也〈南海=現ソフトバンク〉ですね。歴代記録では通算安打、本塁打、打点のいずれも2位です」
高田「守備の負担の大きい捕手であれだけの数字を残したのだから立派なものです」
大場「現役時代に自分が打って勝っても、ヒーローインタビューでは口が重かった。点を取られると鶴岡(一人)監督から、なんであんな球を投げさせたんだ、とよく怒られていたようなんです。試合中に監督とケンカしながらあれだけ打ったのですからね」
真々田「バットを少し短めに持ち、バットコントロールにも優れていました」
露久保「その野村さんの本塁打、打点の通算記録を破ったのが王貞治。868本の本塁打は断然の数字(2位は野村の657本)ですし、最強にふさわしいと思います」
菅谷「長嶋茂雄(巨人)もそうですが、王もオープン戦の初戦から日本シリーズの最終戦まで出場しました。長く一線で活躍し、休まずに試合に出続けるのも最強の条件でしょう。王は日米野球などを加えたら1000本を越える本塁打を打っているのでは」
高田「まあ、オープン戦に出続けたのは、読売新聞の地方での拡販のために頼まれたこともあるのではないですか(笑い)。オープン戦は地方の球場で開催されることが多いですから」
寺尾「王は高校時代(早実)から凄かった。草薙球場でのダブルヘッダーで10打数9安打したのを見て、凄い高校生だと」

▽天覧試合の長嶋、頭脳派の落合

高田「やはり長嶋でしょう。勝負強さ、ファンを魅了するプレーは一番。通算記録を見ると通算安打は9位、本塁打は14位、打点は7位。でも、それ以上に天覧試合のサヨナラ本塁打のように、強烈な印象を残しています」
真々田「王があれだけ本塁打を打って走者を掃除しても4度も打点王になっています。それだけ勝負強かったわけです。王が敬遠されたあと打つケースもありましたが・・」
露久保「落合博満(ロッテ)も最強にリストアップしていいと思います。3度の三冠王は落合一人だけです」
司会「川崎球場を本拠地にしていたロッテ時代、試合前に気象台に球場近辺の風向きと強さを問い合わせ、左翼から右翼に強い風が吹いていたら、ライト方向に高い打球を打ってスタンドインさせた、なんて話もありました。技術派だけでなく頭脳派だったと。まあ、都市伝説かも知れませんが・・」
田中「アキレス腱断裂を乗り越え、1989年に40歳を過ぎて本塁打王(44本)、打点王(125打点)の二冠に輝いた門田博光〈南海〉もすごかった。81、83年にも本塁打王のタイトルを取っています」
司会「歴代でも本塁打、打点は3位。安打数は4位です。門田は本塁打のなり損ないがヒットという考え方。あの王でさえ、ヒットの延長が本塁打と考えるのですが、発想もユニークですね」(続く)