「夢を見させてくれる大谷翔平」(田中 勉=時事通信)
プロ野球日本ハムから米大リーグのロサンゼルス・エンゼルスに移籍し、大リーガーたちをすら驚かせるデビューを果たした大谷翔平選手。その一方で、デビューから無敗の最多連勝記録となる29連勝、朝日杯トーナメントでの一般棋戦史上最年少優勝など数々の最年少記録を塗り替え、「100年に1人の天才」と言われる活躍をする将棋の藤井聡太六段。この2人の今の注目度は、全く異なる領域ながら共通するものがあると感じるのは筆者だけだろうか。
▽抱くワクワク感
大谷も「100年に1人」の天才かもしれない。長い歴史を誇る大リーグでも、投手と打者の「二刀流」で勝利数と本塁打数で2ケタの数字を残したのは、ベーブ・ルースしかいない。それは1918年、今から100年も前のことだ。もしかしたら、そのルース以来の記録を投打で残してくれるのではないか、との期待をいやおうもなく抱かせる。
大谷は打撃では3試合連続本塁打を放ったのをはじめ、それ以外の打席でも球を見極める安定した打撃を見せている。相手投手も研究し、内角低めへの球が多いようだが、それにも対応できる技術力と身体能力がある。投球でも2試合連続で好投し、勝利投手になった。
さほど野球に関心のない人にさえ一挙手一投足に注目させる大谷と、将棋にあまり縁のなかった人に一手一番の勝負に関心を持たせる藤井六段。この何とも言えないワクワク感を抱かせる点が、二人の共通点だ。
▽驚きと賞賛
テレビのニュースバラエティ番組で、ある野球解説者が「まだ始まったばかりなのに(メディアは)騒ぎ過ぎ。シーズンが終わったときに(大谷が)駄目だったら、知らんふりじゃないの。まだごちゃごちゃ言う時期ではないんだよ」という主旨のコメントをしていたが、ちょっとそれは違うのではないかと違和感を持った。
開幕前の非公式戦でパッとしなかった大谷が、公式戦に入るや米国のメディアも驚く活躍を見せたのである。誰もが驚いた。辛口の米国メディアですら、驚きを隠さず、賞賛したほどだった。「驚きと賞賛」。それ以外の何物でもなかった。ちょっと活躍したから過剰に取り上げ、最終的に大した成績を残さなかったら相手にもしない、というようなこととは話の次元が違うのだと考える。
今、「素直に驚き、たたえる」というシンプルな行為なのだ。シーズン終盤までこのワクワク感が続けば、なお結構なのは言うまでもない。自身の通常の現実から離れ、夢を見させてくれる大谷選手と藤井六段への関心は、一種の喜びそのものだ。それは筆者だけだろうか。(了)