第6回「懲罰と罰金」

◎懲罰より罰金が原則だった

▽ドジャースを手本にした罰金制度

川上巨人には「懲罰はなかった。代わりに罰金があった」と、参謀だった牧野茂さんが同氏著の「巨人かく勝てり」の中で書いている。よく「罰として試合に出さない」などの懲罰があるといわれているが、川上監督は「プロ選手なのだから、試合に出す出さないなどの体罰みたいな懲罰ではなく、金でケリをつけるのが原則」という方針だった。
 この「懲罰より罰金」の手本は、やはりドジャースにあった。牧野さんが目撃したドジャースのオープン戦で選手がボーンヘッドを侵したときである。
 とたんに監督が、
 「罰金100ドル!」
 といった。
 いわれた選手が言い訳すると、
 「罰金200ドル!」
 なお選手が、
 「でも……」
 といいかけると、
 「よーし、300ドルだ!」
 という具合だったそうで、牧野さんはこの方式を川上監督に話して採用してもらったのだとか。

▽スクイズ見落とし2万円

その罰金には2通りがあった。
 一つはグラウンドでの失態である。
 ・一塁への全力疾走を怠る 1万円
 ・バックアップに遅れる 1万円
 ・ボーンヘッド 5000円。2度やると罰金だけでなく二軍落ち
 ・体調不良を試合前にいわない 1万円
 ・バント失敗 3000円
 ・ヒット・エンド・ラン失敗 5000円
 ・無死または一死走者三塁で生還させられなかったとき 5000円
 ・投手がノーボール2ストライクから安打されたとき 5000円
 ・サインの見落とし 1万円
 ・スクイズのサイン見落とし 2万円
 ・ローティション通りに登板して早々とKOされた 1万円
 もう一つは生活面での罰金である。
 ・集合時間に遅刻 初犯1万円、再犯2万円、3度目3万円。キャンプなどの門限破りも同じ
 ・私生活における不始末は球団と監督が協議して、進退を含めて決める

▽不測事態に備えた“巨人時間”

昭和40年代でこの額である。いくら高額年俸をはむプロ野球選手であってもかなりの高額だった。
 一番多かったのは攻撃面に関するもので、ベンチから三塁コーチスボックスの牧野コーチを経て出る「サイン」に関してである。
 まず第一にサインの見落とし。ランナーが出ればバントかヒットエンドランか1球待てか、などのサインが出るのだが、それを見落としまう。
 サインは見ていたのだがバントに失敗してしまった、バントをしたにはしたが走者を進塁させられなかった。ヒット・エンド・ランやラン・エンド・ヒットに失敗したなどの攻撃面の罰金である。
 投げる方では、ローティション通りに登板した投手が序盤でKOされてしまったとか、ボークで相手に得点を与えてしまったとかのプレー上のミスである。
 川上監督は、とにかく注意深くプレーしていれば失敗しなくて済む「ケアレスミス」を嫌って、厳しく罰金を徴収した。
 グラウンド外の私生活面における「罰」も厳しかった。それは「集合時間」から始まる。
 集合に遅れると理由の如何を問わず1万円。途中で車が故障した、とか、電車が遅れた、とかの理由の一切を問わずである。川上監督は、「不測の事態が起こっても間に合うように余裕を持って行動しろ」というわけだった。それが徹底して「巨人時間」というのができていて、「集合時間の30分前」にはみんなが集まっていた。
 当時の担当記者もそれに倣って、かくいう私も原則的に「集合30分前に行く」習慣が、いまだに身についている。(続)