第3回 ピッチャーがだめならバッターで(露久保孝一=産経)

▽投手から打者に転向して成功

今年、夏の甲子園高校野球(全国高校野球選手権)は100周年を迎えた。その長い歴史の中で、「怪物」「怪童」「豪傑」などと形容された数多くのヒーローが誕生している。

①尾崎行雄、野村弘(のち弘樹)、桑田真澄、松坂大輔②王貞治、柴田勲、愛甲猛・・・らは投げて打って勝ち進み、注目された選手たちである。

王らの②の選手たちは、すぐ分かると思う。甲子園のエースからプロで打者転向した巨人の2人、王と柴田は数々の「ヒーロー伝説」を残した。

早実からプロ入りしてすぐに打者に切り替え、やがて「一本足打法」となった王は、通算868号という世界本塁打記録を樹立した。

神奈川の法政二出身の柴田はプロ入りしてすぐ投手失格となり、外野手に専念。俊足を生かした「紅い手袋の盗塁王」としてONを追う人気選手に成長した。

横浜の愛甲は3年夏の甲子園でエースとして優勝投手になり、ロッテに入団。4年目に野手転向し、バットで中心打者として活躍した。

▽甲子園優勝投手でプロ100勝

さて、尾崎ら①の4人は何を表わすか? 投手であることは一目瞭然だが、共通した記録を持つ。夏の甲子園の優勝投手でプロ通算100勝以上を挙げた投手なのである。

尾崎は大阪・浪商から東映、野村はPL学園から横浜大洋、同じくPL学園の桑田は巨人、松坂は横浜から西武に入っている。

しかし、この欄は「ピッチャーがだめならバッターで」がテーマなので、その話を進めたい。

現在、広島でプレー中の堂林翔大は、中京大中京でエース・4番打者のチームの柱として活躍した。3年夏の甲子園決勝では右中間へ先制2ランホームランを放ち優勝に導く。この大会で打率.522、打点12、二塁打6本と打ちまくった。甘いマスクのうえに、三拍子そろった野球センスを持ち「ベースボールサイボーグ」と呼ばれた。

2010年広島にドラフト2位入団。打者に絞ってプレーを続けているが、まだ地味な存在に甘んじている。プロ9年目の今年こそ、レギュラーの座をつかみサイボーグ復活してほしいところだ。

▽WBCで4番を打った中田への期待

北海道には日本ハムのホームラン打者、中田翔がいる。広島出身で大阪桐蔭に進み、1年夏に一塁手のレギュラーになり甲子園出場。秋になると、エースになり4番を任された。2年春には151キロの速球を投げ込んだ。

しかし、肩を痛め投手より打者に重心を移し、4番・右翼手として豪快に飛ぶホームランを打ちまくった。3年夏の練習試合で当時の高校通算新記録となる87本塁打をマークし「平成の怪物」というニックネームがついた。大阪大会の決勝戦で、投手として挑み初回に3失点しチームは敗退。最終学年の甲子園出場は叶わなかったが、1年夏と2年春の甲子園で4本の本塁打を記録している。

プロに入ってからは、一塁手の主砲として順風満帆の活躍。国際大会のWBCでは4番を打ったこともあり、2014年と16年に2度パ・リーグ打点王に輝いている。

王、柴田らと違い、中田には甲子園のマウンドには立っていない。しかし、投手から打者に転向したプレーヤーであることには変わりない。今年はプロ11年目で「大願成就」に狙いを定めている。その気迫を知って、スタンドから声が飛ぶ。

「なかたぁ、今年はホームラン、打点の二冠王を取って!」

道さん子からの心強い後押しを受け、中田は初のホームラン王と3度目の打点王と、そのタイトルを獲得する勢いで好調な打撃を続けている。

今夏の甲子園は、元号でいえば最後の「平成」大会となる。投手でも、打者でも、最後にして新たな「平成の怪物」は現われるかどうか?(了)