第66回「ピアッツア、ニューヨーク・キャッチャー」(島田 健=日本経済)

◎ゲイ疑惑
▽捕手最多ホームラン
マイク・ピアッツアといえばドジャースでラソーダ監督の元、捕手に取組み、ついにはキャッチャーとして最高の打撃を残した選手となった。野茂英雄とはドジャースとメッツで2度バッテリーを組んだ。01年には打率3割2分4厘、38本塁打、113打点の成績。イタリア系の甘いマスクで人気も抜群だ。23年のWBCではイタリア監督を務めた。
そんな選手の活躍を見て、感動し自分のバンドの曲に取り入れたのが、ベル・アンド・セバスチャンを率いるスコットランのグラスゴー出身のスチュアート・マードックだった。
▽守神のよう
ある日、シェイ・スタジアムでピアッツアを見たマードックは「ほとんど一目で惹きつけられてしまった。どこにいてもまるで守神のような存在で、誰もが後を追いたくなるような人間だった」という。 
作った唄は恋人たちが「駆け落ちでもしようか」などと言いながら世間話に野球も出てくるという、軽い語り口だが、たったひとつ問題発言があった。題名と同じ歌詞の後、「あなたはストレートなのかゲイなのか」という直球を投げ込んでしまったのだ。
▽噂はあった
ラソーダ監督のペットと言われていた時から噂はあったらしいが、人気選手になってからこんなにゲイ疑惑をストレートに言われるなんて。本人は否定し、女優のデビー・ダニングや元プレイメイト(プレイボーイ誌のグラビアガール)の何人かとの交際もあったが、噂は中々消えてくれない。
そこにこの唄(03年リリース)だから外野は盛り上がる。噂に火をつけた格好だが、逆に忘れられない唄としてバンドの一つの代表曲になった。ピアッツアは元プレイメイトのアリシア・リクターと05年に結婚して2子を得た。そこでようやく疑惑も下火になったそうだ。
▽殿堂入り
16年にピアッツアは念願の殿堂入りを果たした。
その時、インタビューを受けたマードックは「僕が書いたあの歌詞がみんなの話題になるなんて思いもよらなかった。彼はクールな男だからそんなことは気にしなかっただろうし、自分の名前を知っているヒップスターがいることを喜んでいてくれると思う。妻もまだメッツのファンだしね」と語ったそうだ。
人騒がせな唄とは思っていなかったようだ。
検索は「Piazza, New York catcher Belle and Sebastian」(了)