「たそがれ野球ノート」(24)-(小林 秀一=共同通信)
◎二人の共通点
清武英利氏の著書「サラリーマン球団代表」は読みごたえがあった。
マツダの経理から広島カープに出向した鈴木清明さん、系列の旅行会社から阪神タイガースに移った野崎勝義さん、この二人の球団での奮闘ぶりを描いている。
親会社と球団の軋轢や、オーナーとのやり取りなどで苦労する二人を追い続け、選手の育成や査定システムなど運営面から、新監督選任の表に出てこない話まで、細かく触れられている。「そうだったのか」と、埋もれていた真実にも出合うことができた。
なにより、実話づくりなのが驚かされる。現実をベースにした小説なら都合よく脚色していくことができるが、ここまで実名で展開できるのは、しっかりとした取材の裏打ちがあるからだろう。
筆者がよく知る人物も何人か登場してくるが、会話の言葉遣いなどもリアルで、幅広い聞き取りの積み重ねがうかがえた。
山一証券関係などノンフィクション物をいくつかお書きになっているようなので、ぜひ読ませていただくことにする。
一方で、2004年夏に巨人の球団代表に就いた清武さんに対して、担当記者の評判は決してよくなかった。批判的な記事を書いた記者を恫喝することなどもあったそうで、球団内にも批判的な声が出ていたという。
筆者は巨人担当、連盟担当とも経験しているが、幸か不幸か時代が違って、清武さんとの接点はなかった。
もう一冊ほぼ同時に、過去の冤罪事件を取り上げた「冤罪の深層」を読んだ。冤罪を生んでしまった取り調べや司法の問題点を鋭く追及している。筆者は読売新聞の司法記者だった前澤猛氏。清武氏も読売新聞社会部出身。
2冊を読み終えて、二人の思わぬ共通点に気づいた。
前澤さんは社説執筆を拒否された渡辺恒雄氏(当時論説委員長)を名誉棄損で提訴。清武さんは新聞社の会長兼主筆で球団会長でもあった渡辺氏が頭越しにコーチ人事を覆したとしてコンプライアンス違反で同会長を告発し退職している。(了)