「大リーグ見聞録」(88)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)

◎選手の適正と球団の期待度のミスマッチ
▽助っ人は本塁打減でクビ
「身長がある分(2㍍)、ホームランバッターと見られがちですけど、打率の方が自分は自信がある」
 2025年4月12日、巨人の秋広優人(22)、大江竜聖(25)がリチャード(砂川)との2対1での電撃交換トレードでソフトバンクに移籍した。冒頭は入団会見での秋広の発言である。秋広は入団3年目の2023年、121試合に出場し、打率.273、本塁打10本、打点41を記録した。その年の5月25 日のDeNA戦では3番右翼でスタメン出場。巨人の20歳以下のクリーンアップは松井秀喜以来だった。背番号も松井の「55」。パワーヒッターとしての期待の大きさがうかがえた。    
 ところがシーズン後半は失速。8月以降は本塁打ゼロ。昨年は一軍出場が24試合。本塁打0に終わった。今回のトレードは、パンチ力に見切りをつけられての放出とも受け取れる。
 実はこれ、外国人選手にしばしば見られる。前年から本塁打が減少したとたん、評価が急降下、クビになった助っ人は少なくない。顕著だったのが1985年のシーズンオフ。ケン・モッカ(中日)、トミー・クルーズ(日ハム)、スティーブ・オンティべロス(西武)が打率3割を打ちながら、クビになった。モッカは31本から13本、クルーズは36本から17本、スティーブは20本から11本に減った。打率も前年より落ちたとはいえ、それぞれ.301、.315、.321。もちろん、本塁打減だけが契約打ち切りの理由ではないだろうが、「パワーが衰えた」と判断されたのは間違いなかろう。
▽体が大きいとパワーヒッター?
 MLB時代の持ち味に関係なく、もともと日本のチームは外国人打者に長打力を求める傾向が強い。MLBに比べ日本の球場が狭いからか。しかし、モッカやスティーブはMLBではアベレージヒッターだった(クルーズはメジャー経験なし)。3人は何とかプロ野球に順応し、日本の投手の攻め方にも慣れ、成績を残した。だが、一発を期待されて、本来のバッティングを狂わせ、活躍できないままで終わった助っ人もいる。もっとも最近はこうしたミスマッチは少なくなっているが…。
 ところで、秋広で思い出したことがもうひとつある。巨人、横浜(現DeNA)で20年間にわたり活躍した駒田徳広(現巨人三軍監督)だ。駒田も長身(192㌢)から長打を求められ、一軍デビュー戦の初打席(1983年4月10日、横浜戦)で満塁本塁打を放ったことで、さらに期待が高まった。打撃指導を受けるため、本塁打王・王貞治を育てた荒川博(元巨人コーチ)の自宅の通ったこともあった。
 だが、途中で自ら通うのを辞めた。駒田が一軍レギュラーに定着したころ取材した。その際、こんなことを話していた。

「自分は体が大きいから、長打を打つパワーはある。だけど本来は本塁打バッターではない。欲しいタイトルも本塁打王ではない」
 駒田は長身に似合わぬ、巧みなバットコントロールで通算2006安打を打った(本塁打は195本)。
 秋広も2022年のイースタンリーグでは88本の最多安打を記録している。新天地でプレッシャーから解放され、本来の持ち味を発揮することを期待したい。(了)

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