「いつか来た記者道」(92)-(露久保 孝一=産経)

◎ボールが変える豪快なホームラン
 大リーグの大谷翔平の豪快なホームランは、日米のファンを陶酔する。打球は高く舞いあがり、場外の海まで飛んでいく特大砲弾もある。大谷の打撃がすごいのか、ボールが飛ぶのか、ファンには興味のあるところだが、どちらも正解であろう。前回、このコラムは「ピッチャー、振りかぶって第一球を投げました」とラジオアナウンサーが告げ、投手と打者の対決がスタートするダイナミック投法について書いた。今回は、豪快な打撃を見てみたい。
 実況アナは、打者のホームランには「打ちました。高く舞い上がった。センターバック、バック。入るか、どうだ。フェンスを越えた。ホームランだ」と叫ぶ。聴衆者は、この絶叫を聴き興奮する。昭和時代の速球投手だった権藤博さんは、打者対投手の対決は「やるか、やられるか」「目いっぱい打者が振ることに、ドラマが生まれる」と熱筆した。まさに、その通りとファンは頷く。
日本の野球は21世紀に入り、高校野球だけでなくプロの打者も、ヒット狙いから小さなスイングで「チマチマした島国的野球」をするようになった。その小さな打法を、大谷が豪快なスイングをしてホームランの魅力を取り戻した、と権藤さんは付け加えた。まさしく、豪球に対するフルスイングは野球のドラマを生む最大の魅力なのである。稲尾和久対長嶋茂雄、江夏豊対王貞治、江川卓対掛布雅之など数多いが、技対技、力対力の真っ向勝負は観衆の目をくぎ付けにするのだ。
▽新庄監督が飛ぶボールの採用を提案
 昭和時代から「飛ぶボール」は存在した。「ラビット」と呼ばれる、ウサギが跳ねるように飛んだという飛距離の出るボールがあった。試合球は、球団ごとに決めていたからだ。プロ野球で「統一球」が2011年から使われ始めると、本塁打数が減り「飛ばない統一球」と皮肉られた。そのため、本物のスイングからの打球だけが本塁打になると、本来の「正しい打ち方による野球」に戻った。
しかし、本塁打が少ないのはファン離れを起こす、と球団から声が出て、飛ぶボールの復活になる。「飛びすぎるボール」が出現して打者の基本姿勢が変わり技術の劣化を招く現象が起きる。それでも、打者からは飛ぶボールへの欲望は消えることはなく、一段と高まる。
2026年のプロ野球開幕を前に12球団監督会議が開かれ、席上、日本ハムの新庄剛志監督は「ボールがもう少し飛んだ方が面白い」と発言した。NPB事務局から「反発係数は規定の範囲内で管理されている」と説明があったが、プロでは再び「飛ぶボール」の時代が到来しそうなムードだ。
 プロの打者のスイングは野球少年・少女の手本であるべきである。しかし、打者の本能は遠くへ飛ばしたいにある。投手のダイナミックワインドアップからの投球を豪快な一振りで飛ばす―この素晴らしい対決は、本物の技による勝負である。飛ぶボール、飛ばないボールの採用は気になるところではあるが、選手はみな、正当な技を磨き上げたダイナミックな一投と一打の対決を追求してほしいものである。(続)

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